技術解説(富士フイルムメディカル)
2023年9月号
MRI技術開発の最前線
「ECHELON Synergy」の特徴的な新技術
京谷 勉輔[富士フイルムヘルスケア(株)放射線診断事業部ビジネス推進部]
富士フイルムヘルスケア株式会社は,MRIシステムの新しいモデルとして,70cmの開口径を持つワイドボア1.5T*1超電導MRIシステム「ECHELON Synergy(エシェロン シナジー)」を3月27日に発売した。
ECHELON Synergyは,撮像時に断層画像の位置・角度の自動設定が可能な機能やノイズ除去技術など,AI技術*2を活用した機能・技術を搭載したMRIシステムで,検査ワークフローの効率化と検査時間の大幅な短縮が期待できる。その特徴的な3つの機能と,今回新しく臨床現場にご提案したい3つのアプリケーションについて解説する。
■ECHELON Synergyの3つの特徴的な機能
1.「ワンタップ」で撮像の実行をアシストするさまざまな機能
ECHELON Synergyは,ワンタップで撮像の実行をアシストするさまざまな機能を搭載している。タッチパネルのスタートボタンで本機能を起動するだけで,寝台を装置内に移動でき,受信コイルの位置を検知して寝台位置の微調整を行うことや,被検者の位置を検知して,その中心に撮像位置を微調整することができる。
また,続けて撮像時には,AI技術を活用したスライスライン設定サポート機能により,取得する断層画像の位置・角度を自動で設定することが可能である*3。さらには,頭部MRA画像のクリッピング画像を自動で作成することが可能*4であるなど,スキャン後の画像処理まで自動で実行するため,MRI検査のワークフローの効率化が期待できる。
2.簡単なスライド操作でセッティング可能な受信コイル
これまで複数のパーツに分かれていた頭頸部用受信コイルを一体化し,アタッチメント交換不要の「FlexFit Neuroコイル」を新たに開発した。このコイルでは,頭頂部のレバーをスライドさせると,被検者の頭部形状にフィットしたセッティングが可能である。このセッティングにより,従来の「WIT Posterior Head/Neckコイル」と「WIT Anterior Headアタッチメント」を組み合わせた撮像に比べて,信号ノイズ比(SNR)の向上が期待できる(図1)。
3.短いスキャン時間でも高画質な画像を取得できる画像処理技術
MR画像のスキャン時間と画質はトレードオフの関係にあり,高画質な画像を得るためにはスキャン時間を長く取る必要がある。ECHELON Synergyは,繰り返し演算処理を行う独自の高速撮像法「IP-RAPID」と,AI技術を活用して新たに開発したノイズ除去技術「Synergy DLR」を組み合わせることで,より短時間で高画質な画像の取得が期待できる(図2)。
■臨床現場にご提案したい3つのアプリケーション
1.HiMAR Plus(磁化率アーチファクト低減技術)
体内に金属インプラントがある被検者を撮像する場合,磁化率アーチファクトにより,インプラント付近の信号が欠損したり,画像に歪みが生じることが知られている。今回,新しく開発された「HiMAR Plus」は,異なる周波数帯域で励起および受信した信号から得られる複数の画像を合成し,アーチファクトを抑制する技術である。この技術により,従来のfast spin echo法よりも磁化率アーチファクトの低減が期待できる(図3)。
2.Multiphase ASL(非造影灌流撮像)
血流信号を飽和させた画像と血流信号を飽和させていない画像を差分することで,post labeling delay(PLD)によらず,従来のASL-perfusionよりも背景信号を抑制した画像を得ることができる撮像技術「Multiphase ASL」を開発した。この技術を利用することで得られる複数の異なるPLDの灌流画像により,血液到達の遅れをより正確に視覚化することができるようになった。
また,撮像した灌流画像を「SYNAPSE VINCENT Core」*5で解析することが可能である。ECHELON Synergyで取得した複数PLDの画像からarterial transit time(ATT)mapとATTを考慮したcerebral blood flow(CBF)mapを作成し,血流動態をカラー表示と数値化することで,評価を容易にするmapの作成が可能である(図4)。
3.Quantitative susceptibility mapping(定量的磁化率マッピング)
quantitative susceptibility mapping(QSM)法は,組織間の磁化率の差を画像化する方法である1),2)。ECHELON Synergyでは,QSM解析に用いる3D multi-echo RF spoiled steady state acquisition with rewound gradient echoシーケンスで複数エコーの絶対値画像と位相画像を撮像し,DICOMでの画像出力が可能なため,外部ワークステーションに転送することができる。
SYNAPSE VINCENT Core*5は,複数のエコー時間の絶対値画像と位相画像から,脳区域ごとの定量値を算出することができる(図5)。QSM用マルチエコーデータセットのうち,第1エコーのT1強調絶対値画像から脳区域をセグメンテーションする。さらに,マルチエコー位相画像データセットからQSMを算出する。これにより,マルチエコーデータセットから,各脳区域の形態と磁化率変化について位置ズレなく同時に評価が可能となる。
*1 被検者が入る装置開口部を大口径(ワイドボア)にし,より快適な検査空間を実現した磁場強度1.5TのMRIシステムです。
*2 AI技術の一つであるmachine learningを用いて開発しました。導入後に自動的に装置の性能・精度が変化することはありません。
*3 最終的に操作者が提示されたスライス位置を確認し,必要に応じて手動で調整します。
*4 自動クリッピング処理後の画像に対し,最終的に操作者が表示画面上で結果を確認し,必要に応じてMIPタスクを用いて手動クリッピング処理を行います。
*5 富士フイルムの3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」の多彩な解析機能のうち放射線科領域向けに特化したソフトウエアです。
●参考文献
1)Shirai, T., et al. : Quantitative Susceptibility Mapping Using Adaptive Edge-Preserving Filtering. Proc. Intl. Soc. Magn. Reson. Med., 23 :
1860, 2015.
2)Shirai, T., et al. : Quantitative Susceptibility Mapping Using Adaptive Edge-Preserving Filtering : Comparison with COSMOS in Human Brain. Proc. Intl. Soc. Magn. Reson. Med., 24 : 1557, 2016.
*ECHELON Synergy,HiMARは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。
*SYNAPSE,VINCENTは富士フイルム株式会社の登録商標です。
販売名:MRイメージング装置 ECHELON Smart(従来機種)
医療機器認証番号:229ABBZX00028000
販売名:MRイメージング装置 ECHELON Synergy
医療機器認証番号:305ABBZX00004000
販売名:富士画像診断ワークステーション FN-7941型
医療機器認証番号:22000BZX00238000
●問い合わせ先
富士フイルムヘルスケア株式会社
https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/mri-and-ct