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肩関節のMRI
上級者を目指す撮像と読影はじめの一歩
佐志 隆士(AIC八重洲クリニック)
Hitachi MRI Innovation Seminar in Fukuoka ●特別講演
2017-9-25
肩関節のMRI撮像では,静磁場中心,受信コイル(高感度領域),病変部位(撮像関心領域)の3つを一致させ,重ね合わせることが重要である。特に受信コイルの高感度領域と病変部位(撮像関心領域)の位置関係は非常に難しい。これらの3つの部位を考えた撮像が“上級者を目指す撮像”となる。本講演では,肩関節MRI撮像の上級者を目指すための撮像の要点と,読影の基本について説明する。
上級者を目指す撮像
MRI撮像の上級者とは,(1) 患者をリラックスさせ検査中に動かないように患者の協力を得ること,(2) 撮像技術に偏重せず,患者自体(臨床情報)にも関心を持つこと,(3) 美しく,正しい撮像をするために画像評価ができること,であると考える。
●位置決め撮像
肩関節MRIでは斜位3方向撮像が行われる。モニタ診断では,読影医は referential lineを自由に投影できるため,referential lineが正しく表示されるように,適切な位置決めをする必要がある。最初の位置決めでは,静磁場中心,受信コイル(高感度領域),病変部位(撮像関心領域)の3つを絶えず確認し,毎回,さらなる上級者を目指してほしい。そして,最初の位置決め撮像で適切でないと判断したら,ポジショニングやコイルの巻き方などを最初からやり直す必要がある。
肩関節は固定が難しい関節であるが,撮影技師の「良い画像を撮りたい」という気持ちが患者への声掛けにもつながり,確実な固定を可能にする。また,肩関節を正しく撮像するためには,肩甲骨と上腕骨それぞれがつくる2つの平面が存在することを理解する必要がある。これら平面を理解した上で斜位-軸位断・冠状断・矢状断を撮像する。
●肩のポジショニング:基礎編
中高年に多い疼痛肩のMRI撮像の目的は腱板断裂の有無を知ることであり,1方向の位置決め撮像でも十分に対応できる。肩のポジショニングは中間位が基本となる。安静時痛が強い場合は内旋位になってしまうことはやむを得ない。外旋位が過ぎると誤診につながるため注意が必要である。ポジショニングでは,腕の下にパッドを入れたり,タオルを握ってもらうことで,疼痛やモーションアーチファクトが軽減する。
軸位断撮像では,肩鎖関節を十分に入れて腋窩までを垂直に撮像し,角度のついていない軸位断を得ることでchain oblique現象を回避できる。次に,肩甲骨平面と上腕骨頭の長軸をつないだ線を斜位冠状断の基準線とする。斜位矢状断は,肩甲骨平面に対して直交して撮像するため,結果的に関節窩に平行となる。斜位冠状断(図1)と斜位矢状断にreferential lineを表示しながら腱板断裂を読影しても,chain oblique現象で画像が回転することなく,referential lineも各平面に正しく投影される。
●肩のポジショニング:上級編
肩関節撮像の上級者を目指すには,2方向での位置決めを極めてほしい。例えば,不安定肩(Bankart損傷,Hill-Sachs損傷)やスポーツ障害肩(SLAP障害)は,関節窩に対して垂直の軸位断を撮像することで,関節唇を明瞭にとらえることができる。考え方としては,肩甲骨の直交3方向を考えて新しい座標軸をつくるが,読影医からすると回転しているように見えるため,回転補正をかけて画像を表示する必要がある。2方向位置決め撮像においても,斜位冠状断の基準線は,肩甲骨平面と上腕骨頭の長軸をつないだ線となる。また,斜位軸位断は,腱板断裂の評価では上腕骨に垂直,関節唇の評価では関節窩長軸に垂直の断面を撮像する(図2)。なお,肩甲骨平面と上腕骨頭長軸は完全に合わせる必要はないが,角度を可能な範囲で浅くすることが望ましい。
患者固定においては,半側臥位とすることで静磁場中心にポジショニングでき,画質が向上し,脂肪抑制も良好となる。また,肩甲骨をフラットに寝台に置くことになるため,モーションアーチファクトも抑制できる。固定では患側を下にするため,対側の肩の下にパッドを入れ,疼痛を誘発しない程度にするのがよい。また,斜位矢状断については,筋萎縮や関節唇損傷を正しく表示するために,関節窩に平行の断面像であることが望ましい。しばしば上腕骨に平行の断面像を見るが,腱板断裂の評価には不適切である。一方,不安定肩やスポーツ障害肩の斜位軸位断は,関節窩に垂直に撮像するため,何度か回転補正をして表示する必要がある。
このように技術上の要点・工夫は多数あるが,きれいな画像を撮像するには何より患者がリラックスして検査を受けることが大切であり,撮影技師は患者への声掛けや態度などを日頃から大切にして検査を行ってほしい。
読影はじめの一歩
整形領域の診断においては,画像よりも臨床所見が優先することが基本であるが,肩関節は手や足のように触診で病変部位がわからないため,画像診断は重要である。臨床医は直接患者を診て,画像で確認し,治療を行うことができるが,放射線科は検査依頼医師を通してしか患者に貢献できないことを肝に銘じる必要がある。読影では,正常画像を頭に焼き付けておくことが重要で,正常画像の理解があるからこそ異常所見を発見でき,臨床所見と照らし合わせることで正しい診断ができる。過去画像や経過観察画像も考慮して,臨床情報も併せて患者のことを思い浮かべながら読影することが上級者への道となる。
●連続して追いかける
画像に何か見えたら,隣のスライス,隣のスライスと“連続して追いかける”ことが重要である。1つのスライスでわからなくても,スライスを連続して追いかけることで同定することができる。筋肉には起始部があり,関節を越え別の骨に停止する。例えば,棘上筋は肩甲骨棘上窩が,棘下筋は肩甲骨棘下窩が起始部であるが,共に大結節が停止部となる。矢状断の肩鎖関節レベルのスライスでは上に棘上筋,下に棘下筋が分かれて見えるが(図3a),大結節側にスライスを追っていくと,徐々に近づいて停止部では一塊にくっついている(図3b)。そして,この部分が最も断裂が起こりやすい。読影では,正常構造を理解した上でスライスを連続して追いかけて,さらに各撮像断面,各種シーケンスで観察することが大切である。
●待ち伏せる
読影では,患者の臨床所見から損傷箇所を予想して(待ち伏せて)おく必要がある。中高年の疼痛肩であれば腱板断裂が疑われるので棘上筋腱停止端,反復性脱臼肩であればBankart損傷の前下方関節窩(図4)やHill-Sachs損傷の骨頭上背側,スポーツ障害肩であればSLAP損傷の後上方関節唇,というように見るべき場所を考えて読影する。
●無いものは見えない
腱板断裂や関節唇損傷は欠損である。欠損部は滑膜も損傷するため,滑膜炎やびらんが生じて浸出液が漏出し,欠損部にfilling-inする。水がfilling-inした部分が,(脂肪抑制)T2強調画像で高信号となることで病変を読影できるが,逆に言えば,浸出液がfilling-inしていない場合は見落としてしまうため注意が必要である(図5)。
●腱板断裂ではなく剥離と考える
腱板断裂ではなく腱板剥離と考えることで,見えなかったものが見えてくることもある。上腕骨頭は回転したり,肩峰を突き上げたりすることでインピンジメントを生じる。筋と骨の接着剤である腱は,腱板停止付着部にストレスがかかることで剥がれることがあり,断裂よりも剥離と考えて読影する方が病変を見つけやすい。腱板剥離の観察では,大結節前方,棘上筋腱外側の最前縁に注目する。
全層断裂となって停止部を失うと,筋・腱の“引き込み”現象が生じる(図6)。引き込みが生じた筋萎縮を斜位矢状断だけで評価する場合は,過大評価に注意をする。
まとめ
読影では,“連続して追いかける”ことが特に重要である。撮影技師も読影に興味を持って撮像し,画像を見ることを日々繰り返すことで,読影能力は爆発的に伸びる。読影の壁を乗り越えて,放射線科医や臨床医に相談されるような上級者を目指してほしい。
●参考文献
1)肩関節のMRI 読影ポイントのすべて 改訂第2版. 佐志隆士・他編, 東京, メジカルビュー社, 2011.
2)新 骨軟部画像診断の勘ドコロ. 藤本 肇編, 東京, メジカルビュー社, 2014.
佐志隆士(Sashi Ryuji)
1982年 秋田大学医学部卒業。同年 秋田大学医学部放射線科講座助手。99〜2000年 米国・デューク大学留学。2010年よりAIC八重洲クリニックに勤務。
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