MR古今東西
検査できないとあきらめたことありませんか?
“RADAR”で挑戦!
2017-9-25
RADARとは
MRI検査は比較的長い時間,体を動かさないようにし,大きな音を我慢し,狭いトンネルに入らなければ検査ができません。そのため被検者に不随意運動のある場合や,検査中に音が生じることがわからなくなるような認知症の症状がある場合,閉所恐怖症の場合などはMRI検査が困難です。
また,不随意運動に関しては被検者の意思で制御できないため,検査を実施しても動きの影響で良い画像が得られないことがあります。
このような被検者においては,「○○強調画像だけでも……」といった検査をし,有用な画像検査をあきらめてしまうことがあります。一方で,体動の影響で良い画像が得られなくても診療報酬は一律なため,より良い検査は被検者の医療費用対効果を最大限にする上でも重要です。
そこで,動きによる画質の低下を改善し,検査の質を向上させる日立独自のモーションアーチファクト低減手法“RADial Acquisition Regime(以下,RADAR)”をご紹介します。
RADARの原理
MRI検査では,SE法やGE法などによって生じるエコー信号に,周波数情報や位相情報をエンコードして画像再構成に必要な情報を計測し,二次元フーリエ変換によって画像を作成します。周波数エンコードは,エコー信号をサンプリングする際に周波数情報を信号へ付加します。
1つのエコー信号のサンプリング時間は数msと短いため,この間の被検者の動きによる影響は無視できます。一方,位相エンコードについては,一般的な撮像ではシーケンスの繰り返し時間ごとにステップ的に変化させて位相情報を信号に付加するため,画像再構成に必要なk-spaceデータをすべて取得するには時間がかかります。撮像中に被検者が動くと,位相エンコードで与えた位相情報に,位置のズレによる位相情報が加わり,本来とは異なる位置情報となります。従来の撮像方法(Cartesian Scan)では,k-spaceが平行になるように位相情報を付加したデータを取得します(図1a)。この場合,体動によって変化した位置情報は位相エンコード方向に収束するため,位相方向にモーションアーチファクトが生じます。
RADARでは従来法と異なり,k-spaceを回転状にデータ取得します(Radial Scan)(図1b)。取得したデータに対し,信号位置補正をエコー間(またはブレード間)で行い,次にグリッディング処理によりk-space上の位置を補正して格子状にデータを並べます。RADARでは,位相エンコードを用いない,または限られた部分的に位相エンコードを制限することで,モーションアーチファクトが収束せずに拡散するため目立たなくなります。また,Cartesian Scanではk-spaceの中心付近に対応するデータを取得する際に体動があった場合,大きなモーションアーチファクトが生じます(k-spaceの中心は画像コントラストを決定する低周波領域のため)。しかし,RADARでは常にk-spaceの中心付近のデータを取得するため,積算効果により動きの影響が平均化され,モーションアーチファクトが低減します。さらに,エコー間(またはブレード間)における信号位置補正はモーションアーチファクトを低減する効果があります。
RADARの適応シーケンス
RADARの特長として,ブレードを構成するエコー数を自由に設定できます。そのためFSE法では,実効TEや撮像時間,動き低減効果の調整が可能です。また,RADARは独自の位相補正アルゴリズムによりSE法でも使用できます。
SE法には,次のようなメリットがあります。FSE法を用いたRadial Scanでは,ブレード内のエコー信号は複数の180°パルスによって再収束されるマルチエコー計測で得られるため,異なるTEの信号となります(図2a)。一方,SE法を用いた場合は,ブレードを構成するエコー信号はすべて同一のTEの信号となり,画像のコントラストが向上します。SE法では,ブレード内のエコー数は1からプロジェクション数の半分まで自由に設定できます(図2b)。
また,システムソフトウエアがVer3以上の高磁場MRI装置であれば,ブレードを形成したRADARにパラレルイメージングのRAPIDを併用できます(図2c)。ORIGIN5ではRADARがGE法や3D-TOF-MRAにも使用できるようになり(図3),最新のORIGIN6以降では静音シーケンスとの併用も可能となります。そのほか,BASGシーケンスでもRADARが可能であり,これらすべてのシーケンスにおいてコイルの制限やスライス断面の制限を設けておらず,同期計測の併用も可能なため,全身で使用できます。
RADARの設定方法
RADARを使用する場合,Cartesian ScanからRadial Scanに切り替える必要があります。図4に,FSE法を使用した場合のパラメータを示します。図の中のRADARのプルダウンをクリックし,「OFF」を「ON」に切り替えて使用します。このまま撮像することでRADARを簡単に使用できます。
次に,RADARを用いて詳細に条件を設定する場合の取り扱いを説明します。RADARをONにすると,RADARカテゴリの下に「Mode」「Proj#」「E.Factor」「Blade」のタブが表示されます。
「Proj#」は,設定しているPhase#やAnti aliasing,RAPIDなどから自動計算される位相エンコードデータの総数(プロジェクション数)を表示します。FSE法における「E.Factor」は,ブレードを形成するマルチエコー数を示し,ショット数が「Blade」になります。
SE法やGE法の場合,「E.Factor」は任意に設定できますが,RAPIDを併用する場合は3以上に設定します。「Mode」には「Res」と「Time」があり,いずれか選択することでk-spaceの充填率を切り替えられます。Cartesian Scanではk-spaceを格子状に充填するので,k-spaceの各点の密度は一定となります。これに対し,Radial Scanではk-space中心(低周波)領域のデータが密となり,外側(高周波)領域のデータが疎となります。そのため,Radial ScanでCartesian Scanと同等の空間分解能を保つためには,高周波領域が疎とならないように多くのエコー信号を取得する必要があります(1.58倍(π/2)のエコー数が必要)。つまり,「Mode」で「Res」を選ぶと自動で取得するエコー信号数を1.58倍増加させ,k-spaceを100%充填します。一方で,「Time」はCartesian Scanで設定したエコー数のままRadial Scanを行うので,時間の延長はありません。しかし,高周波領域が疎になる分,空間分解能が若干低下します。
それでは,RADAR使用時は撮像時間,または空間分解能を犠牲にしないといけないのでしょうか。いいえ,そんなことはありません。例えば,Cartesian Scanで加算回数(NSA)が2以上あるケースを考えます。NSAが2の場合は,k-spaceの各データを2回取得し,それらを平均することでSNRを上昇させます。ただし,撮像時間はNSAが1の場合と比べて2倍になります。この時,取得したデータ数は2倍になりますが,k-spaceを取得する範囲が同じなので,空間分解能は変わりません。RADARではエコー信号を多く取得する場合,k-spaceの回転角度を細かくすることで,疎になっている高周波領域を密に埋めることができ,時間の延長や空間分解能の低下なく,動きを抑制できます。
実例としては以下のようになります。Cartesian ScanでPhase#=256,NSA=2の時,取得するエコー信号の数は256×2=512となります。この条件からRADARに切り替え,「Mode」を「Res」に設定すると,k-spaceを密に充填するために必要なエコー信号の数は256×1.58=404となります。さらに,NSA=2であるため,エコー信号の数は404×2=808となります。ここで,NSAを2から1に変更すると,エコー信号の数は808×(1/2)=404となります。つまり,初期条件のCartesian Scanではエコー信号の数が512でしたが,RADARの「Res」モードでNSAを半分にすることで,Cartesian Scanと同等の空間分解能で撮像時間は短くなります。しかし,NSAを減らした分,積算効果低減するので,SNRが低下してノイズが目立つ場合があります。そこで,エコー信号を増やしてSNRを高くするには,次の2通りの方法があります。
(1) 折り返し除去機能(Anti aliasing)のSizeを大きくする
(2) Phase#を増やす
(1) は10%間隔で増加可能であり,表示FOVやピクセルサイズを変更せずにSNRを高くできます。(2) はCartesian ScanでPhase#を増やすと,FOVは一定のため,位相方向のピクセルサイズが小さくなりSNRが低下します。しかし,RADARでPhase#を増やすと,エコー数が増えてもk-spaceの取得範囲は変わらずk-spaceの回転角度が細かくなるので,積算効果によりPhase#の増加に伴いSNRが向上します。k-spaceの充填率が100%未満の場合は,(2) は(1) よりもピクセルサイズが細かくなるのでSNR向上の効果は(1) よりも少なくなりますが,空間分解能が上がるためシャープに見えます。
以上をまとめると,Cartesian Scanでは「Phase#増加∝空間分解能向上∝SNR低下」となりますが,RADARでは「Phase#増加∝空間分解能向上∝SNR向上」となります。そのため,RADARに切り替えた際は,「Res」にてNSAを1とし,Phase#で時間調整し,さらに初期条件より時間が短くなった場合は,Anti aliasingのSizeにてSNRを調整します(図5)。また「Time」の場合,Phase#が減り空間分解能が若干下がるのでFreq#を大きくすることで,時間延長なく空間分解能を改善できます。ところで,RADARでは位相エンコード方向という概念が小さくなります。そのため,位相エンコード方向に生じやすい折り返しアーチファクトに関しても,アーチファクトが結像しにくくなります。つまり,FOVの外側に組織があった場合も折り返しアーチファクトは目立ちませんが,RAPIDを併用する際には折り返しアーチファクトの影響を考慮して,Anti aliasingのSizeにてFOVを大きくすることが望ましいと考えます。
以上,RADARの使用方法を紹介しました。検査の質向上のために,RADARをご活用ください。
*RADARは株式会社日立製作所の登録商標です。