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のぐちどうぶつ病院 
AIRIS Lightに更新し動物診療において安全で快適なMRI検査を実施
治療の選択肢が増え,病院経営にも貢献

2016-4-25


野口道修院長(右)と運営をサポートする奥様のカンナさん

野口道修院長(右)と運営をサポートする奥様のカンナさん

のぐちどうぶつ病院は,山口市の現在地に移転開院した時から使用してきた日立メディコ社製永久磁石型0.3TオープンMRI「AIRIS」を,2015年10月に永久磁石型0.25TオープンMRI「AIRIS Light」に更新した。同院では主にイヌ,ネコを対象として,神経系疾患を中心にMRI検査を行っており,操作性が向上したAIRIS Lightで安全な検査を施行している。ホームドクターとして幅広い診療を行う野口道修院長に,動物診療におけるMRIの有用性や,実際の活用について,お話をうかがった。

高度で手厚い診療を提供するペット動物のホームドクター

のぐちどうぶつ病院は,山口県随一の温泉街・湯田温泉にほど近い現在地に,2002年に移転開院した。同院は,もともと宇部市内の動物病院で代診として勤務していた野口院長が,1999年に山口市に隣接した小郡町(2005年に山口市に合併)に開院し,ペット動物を対象に診療を行ってきた。診療内容の拡充に伴い手狭となったことから,今の場所へと移転拡張し,診察室,手術室,入院室に加え,MRI検査室,ICU,リハビリテーションを行える機器やスペースも整備した。検査機器としては,MRI,X線透視撮影装置,内視鏡,超音波診断装置などをそろえ,高度で手厚い診療を行える環境を整えている。
同院では,イヌ,ネコ,ウサギ,フェレット,ハムスターなどのほ乳類から,小鳥,は虫類まで,魚類を除くペット動物全般を診療している。スタッフは,動物看護師5名を含めて常時10人ほどで,このほか近くの山口大学共同獣医学部の学生がアルバイトとして入る。
開業の理由について,野口院長は,「代診として勤めている時に,担当していた飼い主さんから時間外に診てほしいと連絡があっても対応できないといったこともあり,自分の裁量で診療したいと思いました。ホームドクターとして日常的な診療を行いながら,高い技術も提供できる病院をめざして開業しました」と述べる。
外来患者数は,予防接種の時期など多い時で1日100件ほどに上る。内訳は,イヌが最も多く約70%,ネコが約25%で,このほか小動物やは虫類も受診する。また,野口院長は外来診療だけでなく,往診にも力を入れてきた。現在は,車で1時間ほどの萩市内に診療所を設け,月に2回出張診療を行っている。
野口院長は,動物の種類,疾患を問わず幅広く診療しているが,なかでも外科を得意としており,椎間板ヘルニアや腫瘍摘出などの外科手術を手掛けている。ペットとして人気の高いシーズーやダックス系の犬種に多い椎間板ヘルニアは,重症化すると内科療法では効果を得にくく外科療法も選択されるが,大学病院以外で脊椎の外科手術を行う獣医師は少ないため,県内だけでなく,遠くは北九州からも受診に訪れる。

安全に検査を施行するためオープンMRIを選定

野口道修 院長

野口道修 院長

イヌやネコが罹患する疾患は,がんや心臓病,腎臓病など,ヒトと同じ疾患が多い。治療方法もヒトと大きく変わることはないが,動物は体の不調を言葉にできないため,飼い主が様子の変化に気づいて受診した時には,病状が進んでいることも多い。診察においては飼い主にペットの状態をていねいに聞き出すことが大切だ。
診察では,飼い主への問診,視診,聴診,触診で疾患の見当を付けて,生化学検査やエコーなど必要な検査を行う。野口院長は,「診断においては検査機器に頼るところが大きいのですが,開業医の多くはMRIなどの装置を持たないため,大学などへ検査を依頼することになります。しかし,動物の場合の判断は難しく,血液検査などでどこに問題があるかわからず,病状が進行しているといったケースもあります」と,動物診療の難しさを述べる。
野口院長は,脊椎や脊髄の診療にはMRIが必須と考えていたため,開業後3年で病院の移転とMRI導入に踏み切った。
「大学で外科研究室に在籍していた時に,日立メディコのMRIが導入されました。それまで神経系の画像検査としては脊髄造影検査などを行っていましたが,MRIで椎間板ヘルニアや腫瘍が明瞭に描出されるのを見て,非常に衝撃を受けました。その時から,MRIを使った診療をしたいと思っていました」
新しい病院にはMRI検査室を設け,開院と同時に0.3TオープンMRIのAIRISを導入した。装置の選定では,オープンタイプであることが決め手となった。動物のMRI検査では全例に麻酔を用いることから,安全に施行するためには,検査中に呼吸状態や舌の色など,動物の様子を目視で確認する必要がある。野口院長は,その条件に見合う装置としてAIRISを導入したが,実際に重大事故など生じることなく,安全に稼働してきた。そして,更新時期を迎え,装置の選定を進める中で発売されたのが,永久磁石型0.25TオープンMRIのAIRIS Lightである。

コンパクトでセッティングが容易なAIRIS Light

AIRIS Lightは,高い撮像技術と高画質が特徴の「AIRIS」シリーズの最新システムで,高い設置性と操作性を併せ持つ新型モデルとして2015年に発売された。大きな特長の一つが,前後左右に可動するフローティング機構を採用した横配置テーブルである。テーブルを自在に移動することができるため,体軸中心から外れた部位を撮像中心へ容易にセッティングすることができる。また,ガントリ自体が日立メディコのMRIラインナップの中で最小であることに加え,テーブルを横配置とすることで,検査室へのコンパクトな設置を可能にした。
同院では,AIRIS Lightへの更新にあたってシールド張り替え工事を行ったが,検査室の広さ(3.6m×5.2m)は以前と変えていない。野口院長は,「AIRIS Lightが設置されたのを見て,小さいと感じたのが最初の印象です。AIRISは検査室をいっぱいに使っていましたが,テーブルが横配置になったことで広いスペースが生まれ,非常に検査をしやすくなりました」と述べる。
検査では野口院長と看護師が入室し,麻酔やセッティングを行うが,横配置テーブルとなったことで,横に並び立って作業ができるようになり,検査室内での動線が効率的になるとともに,スペースが広がったことで麻酔器やモニタ類を配置しやすく,機器の取り回しが容易となった。
「テーブルは手動ですが,指だけで押せるほど軽く,大変扱いやすいです。撮像中心の位置がレーザーで十字に示されるため,スムーズにセッティングでき,検査準備の時間を短縮できます」
コイルは,ほとんどの場合は膝用コイルで対応可能で,大きい犬種では頭部用コイルLサイズを用いている。

コンパクト設計のAIRIS Light

コンパクト設計のAIRIS Light

スタッフが並んで作業することが可能な横配置テーブル

スタッフが並んで作業することが可能な横配置テーブル

   
大きい犬種では頭部用コイルのLサイズを使用

大きい犬種では頭部用コイルのLサイズを使用

撮像中心を示すレーザーガイド

撮像中心を示すレーザーガイド

   
位置決めが容易になったコンソール

位置決めが容易になったコンソール

AIRIS Lightを紹介するパネルを待合室に設置

AIRIS Lightを紹介するパネルを
待合室に設置

 

検査時間が短縮し動物と飼い主の負担が軽減

AIRIS Lightには体動アーチファクトを低減する“RADAR”や,水脂肪分離機能“FatSep”など,臨床上有用なアプリケーションが搭載されている。同院では,現在のところ必要性が低いためアプリケーションは使用していないが,各シーケンスの撮像,3軸撮像,造影検査など,ヒトと同じように検査を行っている。野口院長は画質について,「AIRISよりも磁場強度が下がるため少し心配していましたが,システムの進化で画像は良くなっており,診断や術前計画に必要十分な画質を得られています」と評価する。
検査では,セッティング後に野口院長が位置決めをして,撮像を開始する。検査中は看護師が管理を行い,野口院長は診察や処置をしながら合間に画像を確認している。撮像時間は平均で40分ほどだが,検査時間全体は以前と比べて大きく短縮していると野口院長は話す。
「以前は位置決めが難しく撮り直すこともありましたが,現在は非常に楽になりました。また,AIRIS Light では3軸が連動して一度に設定できます。あまり検査時間が延びると患者さんの負担となるため,後日に再検査を行うこともありましたが,更新後は検査時間が短縮し,患者さんや飼い主さんに負担を掛けずにすんでいます」
AIRIS Lightは稼働後,約4か月で70件ほどの検査を施行している。領域は頭部が50%,脊椎35%,腹部10%で,神経系や脊椎の疾患はネコよりもイヌの方で多いことから,検査対象のほとんどがイヌとなっている。
診断では,必要に応じて過去画像との比較も行っている。2016年2月にはPACSを導入し,フィルム運用からデジタルへと移行した。検査の結果は,診察室でモニタを使って説明しており,フィルムよりも理解しやすいと飼い主からも好評だ。

■症例1:イヌ,頸椎ヘルニア

症例1:イヌ,頸椎ヘルニア

膝コイル,T2WI,SAG,FOV:250mm,
TR/TE:2500/120,スライス厚:3mm,
マトリックス:288×224,scan time:5:48

 

■症例2:イヌ,脊髄空洞症

症例2:イヌ,脊髄空洞症

膝コイル,T1WI,SAG,FOV:220mm,
TR/TE:400/15,スライス厚:3mm,
マトリックス:288×224,scan time:4:31

 

■症例3:ネコ(3kg),頭部リンパ腫

症例3:ネコ(3kg),頭部リンパ腫

膝コイル,造影T1WI,SAG,FOV:220mm,TR/TE:400/15,
スライス厚:3mm,マトリックス:288×224,scan time:4:31

 

■症例4:イヌ,肝臓がん

症例4:イヌ,肝臓がん

膝コイル,T2WI,AXI,FOV:200mm,
TR/TE:3900/95,スライス厚:3mm,
マトリックス:288×224,scan time:5:48

 

■症例5:イヌ,頭部肉芽腫性脳炎

症例5:イヌ,頭部肉芽腫性脳炎

a:膝コイル,T2WI,SAG,FOV:220mm,TR/TE:4500/100,スライス厚:3mm,マトリックス:256×180,scan time:4:08
b:膝コイル,T2WI,COR,FOV:220mm,TR/TE:4500/100,スライス厚:3mm,マトリックス:256×180,scan time:4:08
c:膝コイル,T2WI,AXI,FOV:150mm,TR/TE:4600/100,スライス厚:3mm,マトリックス:224×192,scan time:7:27

 

MRIが動物診療の診断と治療を大きく変える

動物診療でMRIを用いるメリットは多い。まず,動物は体が小さいため,ヒトよりも影響が大きいと考えられる被ばくのリスクがない。小型犬であれば胸腹部などの広範囲を1回で撮像でき,臓器の配置や腫瘍の位置関係を把握することができる。術前には,最適なアプローチ方法や,手技で時間がかかりそうな場所などを事前に知ることができるため,手術計画を立てやすい。
特に神経系の疾患については,MRIがなければ診断も難しく,死後に解剖をしなければわからないことも多くあった。野口院長は,「脳腫瘍は,位置の把握どころか,死後に解剖して初めて腫瘍の存在を知ることもありますが,MRIにより診断や腫瘍位置の特定が可能になりました。また,腹部の腫瘍などは,浸潤の程度がわからないと試験開腹して手術の可否を判断していましたが,MRIがあることで試験開腹をする必要がなくなりました。MRIにより,治療の可否や手術の難易度を,飼い主さんに明示できるようになったことは大きな変化です。最近は,飼い主さん側も明確な説明を求めるようになっていますので,それに応えることができ,診療に納得してもらえていると感じます」と,MRIにより診療が大きく変わっている状況を説明する。
動物病院へのMRIの導入は経営面での不安もあったが,野口院長は,診療に必要であるとの信念を貫き,赤字を覚悟で導入を決断した。
「実は,周りからはリスクが大きいと反対されました。確かに個人病院にとっては負担が大きいので心配もありましたが,少しずつ理解を得ることができ,今回の更新はスムーズに行うことができました。MRIにより疾患がよくわかるだけでなく,治療のバリエーションが増え,獣医師のモチベーションも上がります。赤字覚悟でしたが,気づいてみると収入は上がっており,経営全体としてはプラスになっています」
MRIの導入は,他院との差別化にもなる。野口院長が,「大学病院と比べて検査を予約しやすく気軽に受診できるので,飼い主さんは相談しやすいのだと思います」と述べるように,MRI検査を希望して来院する飼い主もおり,病院を選ぶ際の一つの要素となっていることがうかがえる。

対象の拡大や術中MRIなど広がる動物診療における活用

AIRIS Lightを活用した展望を,野口院長は次のように語る。
「今はイヌが中心ですが,は虫類なども含め対象を広げていきたいと思います。将来的には,ヒトの脳腫瘍摘出術で行われているように術中にMRIを撮像したいと考えています。脳腫瘍の取り残しの有無を確認できれば非常に有用ですし,そのような使い方ができれば動物診療がさらに進歩するでしょう」
現時点では,動物病院へのMRIの導入は多くはないが,その理由を野口院長は,獣医師はMRIを使う機会があまりないため,具体的にどのように有用であるかを知らないことが大きいだろうと推測する。日常臨床における利用法や有用性が広く知られ,MRIが動物診療でも活用されることが期待される。

(2016年2月25日取材)

 

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