Canon Clinical Report(キヤノンメディカルシステムズ)

2024年6月号

AI技術を活用した高精細ADCTで胸部、腹部疾患の診断の確信度が向上 ~PIQEの適用でコントラスト分解能や血管の描出能が向上し、微細な構造物の確認や3D作成に貢献~

佐賀大学医学部附属病院

佐賀大学医学部附属病院

 

佐賀大学医学部附属病院(602床)は1981年開院、佐賀県唯一の大学病院として地域医療を担う医療人の育成、特定機能病院として高度先進医療の提供、また、地域の最後の砦としてドクターヘリの運用も含め救急医療への取り組みなどを行っている。2023年12月、同院でキヤノンメディカルシステムズの新たなADCTのフラッグシップ装置である「Aquilion ONE / INSIGHT Edition」が稼働した。0.24秒の高速撮影などハードウエアの進化と先進のAI技術で実現した超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」を用いた画像診断の初期経験について放射線科の入江裕之教授、中園貴彦准教授、放射線部の北村茂利技師長、田北諭技師に取材した。

入江裕之 教授

入江裕之 教授

中園貴彦 准教授

中園貴彦 准教授

北村茂利 技師長

北村茂利 技師長

田北諭 技師

田北諭 技師

 

地域医療を支える高度な診断の提供と人材を育成

入江教授は大学病院の役割について、「佐賀県で唯一の大学病院そして特定機能病院であり、救急医療をはじめ高度で先進的な医療を提供するとともに、そのための人材の育成、教育、研究が大きな役割です」と述べる。放射線科は入江教授以下、教官・教員10名、医員7名の合計17が名在籍。内訳は放射線診断専門医11名、放射線治療専門医3名、専攻医3名となっている。放射線部には、CTをはじめMRI、PET-CT、血管撮影装置などが整備されている。放射線診療について入江教授は、「救急医療への対応のためハイスペックの機器がそろっていますが、治療への道筋をつけるためには画像診断は欠かせません。それらの機器を十分に活用した診断・治療を担う人材を育成することも放射線科の役割です」と説明する。
CTは、放射線部にAquilion ONE / INSIGHT Editionのほか他社製2管球CTなど3台、ほかに高度救命救急センターに「Aquilion Prime SP/ i Edition」が稼働する。放射線部のCTの検査件数は1日100〜120件で、1台35〜40件を行っている。放射線部の診療放射線技師は34名。

ADCTの特性とDLRによる高精細画像を期待して導入

Aquilion ONE / INSIGHT Editionは、高精細CT「Aquilion Precision」のデータと先進のAI技術によってADCTの高精細化を実現した。入江教授はAquilion ONE / INSIGHT Editionへの期待について、「CTは、MDCTからADCTへと進化し時間分解能と空間分解能は十分向上しましたが、MRIと比べると腹部領域においてはコントラスト分解能が不足しているのが課題でした。その中で、高精細CTの画像を教師データとしたPIQEは、高解像度でコントラスト分解能が高く、最初に画像を見たときには驚きました。これまで各社の高性能CTを導入して新技術に期待しても裏切られることが多かったのですが、今回のPIQEに関しては期待以上でした。高精細画像が直ちに診断精度の向上に結びつくわけではありませんが、少なくとも読影者の確信度が向上して自信を持って診断することができます。例えば、これまで膵臓がんの血管浸潤の有無などは経験的に診断するしかありませんでしたが、PIQEでは腫瘍の辺縁部が鮮明に描出されており、浸潤の程度を画像で確認できます。PIQEの解像度が、どこまで診断能の向上に寄与するかは今後検証が必要ですが、その高分解能は患者さんの診療に貢献できるCTだと期待しています」と述べる。

高解像度画像で組織コントラストや血管の描出能が向上

胸部、婦人科、腹部の骨盤領域を専門とする中園准教授はPIQEについて、「骨盤領域では、ノイズが抑制されていてコントラストが良く、動脈など細かい血管まできれいに描出されています。腹部では、転移性肝がんの遅延相で、AIDR 3D、AiCE、PIQEで処理した画像を比較しましたが、PIQEの画像が正常肝実質とのコントラストが高く、低コントラスト領域の描出能が高いと感じました。婦人科領域では、3D画像を用いた術前シミュレーション画像の作成依頼が増えていますが、尿管と血管を合わせた詳細な術前画像の作成に貢献できるのではないかと感じています」と語る。心臓CTでもAquilion ONE / INSIGHT Editionは、低線量で不整脈症例にも強いことから検査数が増えている。田北技師は、「線量を従来の1/3程度まで落としても、今まで以上の視認性があると循環器科の医師からも評価されています。若年者や不整脈がある患者については、低管電圧撮影を含めて積極的に行っていく予定です」と言う。
4月には肺野領域のPIQE Lungとモーションアーチファクト低減技術「CLEAR Motion」の利用が可能な新バージョンが稼働した。PIQE Lungについて中園准教授は、「解像度が向上して非常にクリアな画像が得られています。1024マトリックスで再構成した画像は、高精細で拡大しても詳細がボケることなく、肺野の微細な構造を確認できました。末梢気管支の拡張や線維化の様子が観察でき、特発性間質性肺炎のサブタイプの予測まで可能になるのではと期待しています」と述べる。CLEAR Motionは、ディープラーニング技術を用いた体動補正技術で、胸部撮影での心拍動などの動きによるモーションアーチファクトを低減できる。中園准教授は、「心臓の動きの影響を受ける肺下葉でも、アーチファクトの少ない画像が得られています。後処理も可能で検査を担当する技師の負担も少ないので、柔軟な運用が可能になると感じます」と述べる。

PIQEを生かし低被ばく・低造影剤量での検査を推進

中園准教授はPIQEによって、さらなる被ばく低減と高画質化を期待している。放射線部では、以前から被ばくや造影剤量を低減した検査に積極的に取り組んできた。北村技師長は、「当院の線量設定は、診断参考レベル(DRL)のデータでも全国の大学病院の中でも低い設定になっています。Aquilion ONE / INSIGHT Editionの導入で、さらに抑える方向で取り組んでいます」と話す。田北技師は、「被ばくを抑える中で、これまでは少しノイズの多い画像を提供していた面もありましたが、PIQEによって従来と同じ線量であればノイズを削減して、さらに線量を低減することも可能になると思います」と述べる。中園准教授は、「PIQEを用いて画質を担保しつつどこまで線量を下げられるか、検証して工夫を重ねていきたいですね」と述べる。
現在、Aquilion ONE / INSIGHT EditionではAiCEでの処理を基本として、より詳細な観察が必要な画像について追加でPIQEの処理を行っている。PIQEを適用しているのは、上腹部の肝臓、膵臓や大腸、骨盤領域の術前評価、頸部や頭蓋底の血管評価など。中園准教授は、「膵がんでは小さな病変や血管浸潤などの確認や、頭頸部は骨のアーチファクトでノイズが多い領域ですが、PIQEを適用することで血管の視認性が向上して細かい領域まで確認することができます」と述べる。

■Aquilion ONE / INSIGHT Editionによる臨床画像

図1 間質性肺炎

図1 間質性肺炎
a:AIDR 3D b:PIQE Lung(1024マトリックス)+CLEAR Motion
PIQE再構成により高解像度・高精細な画像が得られている。また、CLEAR Motionの併用で心臓近傍の気管支や間質性肺炎の視認性が高まっている。

 

図2 膵臓がん

図2 膵臓がん
a:AIDR 3D b:PIQE Body(1024マトリックス)
PIQE Bodyにより十二指腸への浸潤が明瞭に描出されている。
*AIDR 3D=Adaptive Iterative Dose Reduction 3D
*AiCE=Advanced intelligent Clear-IQ Engine

 

細血管の描出力が向上し3Dの作成時間を短縮

Aquilion ONE / INSIGHT Editionの3D Landmark Scanは、低線量でボリューム撮影を行い位置決め画像を作成する。田北技師は、「3Dで位置決め画像が取得できるので、スキャン範囲を確実に設定することができます」と述べる。また、Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは再構成時間が速くなっており田北技師は、「PIQEの追加処理や金属アーチファクト低減技術であるSEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)なども待ち時間なく画像を提供できるのでストレスがありません。以前は画像処理の時間が読影業務のボトルネックになることがあったのですが大きく改善されました」と評価する。
Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは3D画像の作成時間も短縮しており田北技師は、「3D画像の作成では、できるだけ詳細な情報を提供できるように心掛けていますが、これまでは細かい血管を拾い上げるために時間かかっていました。Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは、血管の描出能が向上して作成時間が3割程度短縮されました。視認性も向上しているので、作成を担当する技師の“目にやさしい”装置だと感じています」と述べる。

次世代ADCTの特長を生かして臨床に活用

Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは、70kVの低管電圧撮影も可能だが、同院では腹部などは100kVを基本として低管電圧でさらに造影剤量を削減できるか、今後検討を進めていくという。田北技師は「小児撮影では70kVの低管電圧とPIQEによって、さらに低被ばくで造影剤量を減らした検査も可能になると思います」と述べる。入江教授は、「今後、当院でのデータをフィードバックすることで、高精細ADCTとしての共同研究が進められればと強く期待しています」と述べる。
進取の気風が根づく佐賀の地で稼働したAquilion ONE / INSIGHT Editionは、ADCTの新たな地平を開く大きな推進力となるに違いない。

(2024年2月28日、4月24日取材)

※本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり、本システムが自己学習することはありません。
※ご所属、肩書きは2024年2月28日の取材時点のものです。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-308A
認証番号:305ACBZX00005000

 

佐賀大学医学部附属病院

佐賀大学医学部附属病院
佐賀県佐賀市鍋島5-1-1
TEL 0952-31-6511
https://www.hospital.med.saga-u.ac.jp

 

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