Special Interview
放射線治療計画システムの新ブランド「Elekta ONE│Planning」がもたらす放射線治療の個別化医療における可能性
「MIM Maestro®」によるAuto Contouringと「Monaco」のシームレスな統合により放射線治療計画のさらなる高速化・高精度化を実現
2024-11-1
小澤竜太氏(左)と佐藤 礼氏(右)
高磁場MRI一体型放射線治療装置「Elekta Unity」や高精度放射線治療システム「Versa HD」をはじめ,放射線治療のトータルソリューションを提供するエレクタ株式会社は,新たなソフトウエアの統合ブランド「Elekta ONE」を発表した。2024年11月21日(木)〜23日(土)に開催される日本放射線腫瘍学会第37回学術大会(JASTRO 2024)では,Elekta ONEシリーズの一つとして,放射線治療計画システム「Elekta ONE|Planning powered by MIM」(以下,Elekta ONE|Planning)が国内初出展される。がん治療における個別化医療へのニーズが高まる中,Elekta ONE|Planningは放射線治療に何をもたらすのか。同社オンコロジーソフトウエアソリューションズ ビジネスラインリードの小澤竜太氏とマーケティング統括本部 クリニカルマーケティングマネージャーの佐藤 礼氏にお話をうかがった。
新ブランド「Elekta ONE」がめざす効率的かつ高品質な放射線治療とは
─Elekta ONEという新ブランドを立ち上げたねらいと,Elekta ONE|Planningの位置づけをお聞かせください。
小澤氏:エレクタは,放射線治療にフォーカスした事業を展開しており,各種治療器のほか,治療計画システム「Monaco」や治療情報管理システム「MOSAIQ」などのソフトウエア,その他のサービスを多くの医療機関に提供しています。それらを一つのソリューションとして提供することで医療機関や患者に貢献することをめざして,Elekta ONEというブランドを立ち上げました。Elekta ONEのコンセプトの下,専門性の高いシステムを連携することで,さまざまなタスクをフローとして構築し,迅速かつ正確に高品質な治療へとつなげていくのがねらいです。特に近年,患者一人ひとりに特化した精度の高い治療計画を作成してより正確な治療を行う個別化医療が進展し,さまざまな技術革新も起こっています。そこで,このような臨床ニーズを実現するためのシステムとして,Elekta ONE|Planningを発表しました。欧米では2024年9月から試験導入が始まっており,日本では2025年から提供を開始する予定です。
─Elekta ONE|Planningは,従来のMonacoと比べてどのような違いや特長があるのでしょうか。
小澤氏:Monacoは,高精度な線量計算が可能なアルゴリズムであるMonteCarlo法を搭載しており,強度変調(回転)放射線治療〔IMRT(VMAT)〕などの高精度放射線治療にも対応する包括的なモダリティです。良好な線量分布を実現しつつ,治療計画の立案をより簡便に行えるなどの特長があります。Elekta ONE|Planningでは,このMonacoが進化し,さらに人工知能(AI)技術とのコラボレーションを実現しています。
エレクタは2022年にGE HealthCare社およびMIM Software社とパートナーシップを締結しています。その後,GE HealthCare社がMIM Software社を買収してグループ企業となり,2024年4月にはエレクタとMIM Software社が,放射線治療における最適なソリューションの開発に向けた戦略的提携を行ったことを発表しました。MIM Software社の放射線治療計画支援ソフトウエアである「MIM Maestro®」は,AIを用いた自動輪郭作成(Auto Contouring)に定評があり,多くの医療機関で採用されています。Elekta ONE|Planningでは,このMIM Maestro®とMonacoを統合して細部を作り込むことで,治療計画CTを撮影後にデータを転送しMonacoで読み込むと,自動輪郭作成された画像が表示されるシームレスなデータフローを実現しました。作成された輪郭を確認し,問題がなければワンクリックで治療計画を作成できます。修正がほぼ不要な仕組みを構築していますので,作業効率の大幅な改善が期待できます。
佐藤氏:Elekta ONE|Planningでは, Monacoの性能も向上しています。治療計画立案においては,線量計算に時間がかかることが課題として挙げられますが,最新バージョンのMonaco6.2.2ではNVIDIA社のGPUを採用し,プログラムの設計を見直すなどの改良を行ったことで,CPUを用いた以前のバージョンと比較し線量計算時間が平均で約1/5,治療計画の最適化に要する時間が平均で約1/2に短縮しました。頭頸部などの複雑な部位では,従来,線量計算に5〜10分かかっていましたが,それが1/5になるというのは大きなインパクトだと思います。
Elekta ONE|Planningが臨床にもらたすメリット:即時適応放射線治療(online ART)への期待
─Auto Contouringや線量計算時間などの短縮によって,臨床にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。
佐藤氏:Elekta ONE|Planningを日常の診療に用いることで,通常の治療においては1日の件数を増やせるようになりますし,輪郭作成や線量計算の時間が短縮すれば,ほかのフローが円滑に進むようになり,より重要なことに注力する時間も生まれます。また,VMATなどの高精度放射線治療は治療計画が複雑で計算に時間がかかるため,Elekta ONE|Planningはプランナーの負荷軽減にも貢献します。Monacoにはもともと,テンプレートを用いることでプランナーの技量に依存せず同じような治療計画を立案できる機能が搭載されていますが,Auto Contouringは治療計画をより均質化するためにも有利に働くと思います。
小澤氏:さらに,最も期待されているのがonline ARTへのアプローチです。放射線治療においては,治療計画CTを基に治療計画を立案し,複数回にわたって照射を行いますが,治療が進めば腫瘍が縮小するほか,治療日が異なるため患者の状態の変化によって臓器の位置がずれることがあります。その対策として,近年,患者がカウチに寝ている状態の画像を基に治療計画を最適化し,その日の状態に合わせた治療を行うonline ARTが行われるようになりました。online ARTでは,この再治療計画をいかに迅速に行うかが非常に重要となりますが,Elekta ONE|Planningは,そのようなニーズに応えるシステムとして設計されています。
佐藤氏:適応放射線治療(ART)は,単に治療計画を見直すことを指すのではなく,患者の状態をその日に確認し,状態の変化などに合わせて線量をどう調整していくかが重要なポイントとなります。再計算した治療計画を適応するのか,それとも元の計画で進めるのかも医師の判断になりますので,Elekta ONE|Planningという一連のシステムとして提供することで,より医師の要望に沿ったフローを実現できるようになると考えています。
─Elekta ONE|Planningを用いることで,online ARTをどの程度の時間で実施可能でしょうか。
佐藤氏:国内でonline ART を実施している施設の多くは,再治療計画の時間も含めて30〜45分で行うことを目標としているようですが,Elekta ONE|Planningはそれに十分応えることができます。これまでonline ARTの導入をためらっていた施設でも,Elekta ONE|Planningによってワークフローの効率化と簡略化が図られれば,導入へのハードルが下がると期待しています。
─従来のMonacoと操作性に違いはあるのでしょうか。
佐藤氏:Elekta ONE|Planningのユーザーインターフェイスや操作性は,Monacoと大きく変わりません。Monacoのバージョンアップによって若干変更される部分はありますが,従来と同様に使用できることに加えて,MIM Maestro®が使用可能となり,計算時間も高速化しているということです。
小澤氏:海外の学会でElekta ONE|Planningのデモンストレーションを行った際には,実際にご覧になった来場者の方から,「今まで医学物理士に任せていたが,自分でもできそうだ」というフィードバックをいただきました。そのようにマインドが変わるくらいの簡便な操作性を実現できています。
佐藤氏:治療計画の立案は,海外では医学物理士が行うのが一般的で,分業化が進んでいますが,日本ではまだ医師が行っている施設も多くあります。そのような状況下においては,Elekta ONE|Planningによって治療計画にかかわる作業の効率化・高速化が図られることは,大きな利点であると言えます。
小澤氏:なお,既存のMonacoユーザーは,アップグレードによってElekta ONE|Planningを導入可能で,MIM Maestro®やGPUに最適化した計算アルゴリズムなども含め,各ユーザーの状況に応じてパッケージ化したものをご提供します。
患者一人ひとりに合った治療の提供に向けて
─Elekta ONEブランドの今後の展開をお聞かせください。
小澤氏:Elekta ONEシリーズとして,今回,Elekta ONE|Planningを発表しましたが,その全体を統括する治療情報管理システムMOSAIQやQAソリューションなども,新ブランドとして順次展開していきます。11月に行われるJASTRO 2024の展示ブースでElekta ONE|Planningのデモンストレーションを行うほか,Elekta ONEシリーズについても詳しくご紹介する予定ですので,ぜひ多くの皆様に足を運んでいただければと思います。
─最後に,読者へのメッセージをお願いします。
佐藤氏:近年,大学病院をはじめとする大病院だけでなく,さまざまな地域・規模・スタッフ数の医療機関がARTをはじめとする個別化医療に取り組み始めていますが,Elekta ONE|Planningは,施設に応じた幅広いニーズに対応可能です。Elekta ONE|Planningによって効率化が進めば,医師が患者に対して目を向ける時間が増えることにつながります。新しいシステムが登場すると,性能や操作性などに目が向きがちではあるのですが,本来は,いかに高品質かつ患者一人ひとりに合った治療を提供するか,ということが最も重要です。そのために,Elekta ONE|Planningをどう生かすのが最善なのか,海外の情報なども取り入れながら,常に情報発信し続けていきたいと思います。
(取材日:2024年10月2日,文責・編集部)
●問い合わせ先
エレクタ株式会社 マーケティング部
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