64列128スライスCT SCENARIA View × ちば県民保健予防財団
若年者も受診する健診施設に低線量撮影が可能な「SCENARIA View」を導入 ─高速撮影と逐次近似処理“IPV”で受診者にやさしい胸部CT検査やCTC検査を実施
2020-12-1
低線量の胸部CTを実現したSCENARIA View
公益財団法人 ちば県民保健予防財団は,県内最大の健診・検査機関として巡回健康診断や人間ドック,精査のための外来診療などを提供している。総合健診センターでは2019年5月,CT検査の低線量化をめざし,日立製作所の64列128スライスCT「SCENARIA View」を導入した。画像診断部の杉山園美部長,診療放射線課の岩元興人課長,佐藤昌弘課長代理に,CT検査の実際について取材した。
千葉県民の健康を守る県内最大の健診・検査機関
ちば県民保健予防財団は,県内で保健予防活動を展開する4団体を統合して2003年に創設された。県内最大規模の健診・検査機関として,健診・診療・検査事業や調査研究事業,普及啓発などを通して,県民の健康の保持増進に貢献している。地域保健・産業保健・学校保健事業では,胸部・胃部・乳腺などの検診車も活用した出張集団健診を実施。また,総合健診センター内では,健康診断や人間ドックを実施するほか,専門外来では健診や人間ドックで要精査となった人に対して精密検査を行い,治療が必要な場合に適切な医療機関へ紹介している。
画像診断部は,総合健診センター内での検査を担う診療放射線課,集団検診を担う集検放射線課,読影医への依頼や読影結果の処理などの事務を担う画像診断課の3課に分かれ,全体を杉山部長が統括している。年間の画像検査は,胸部が約35万件,乳腺が約13万件,胃部が約11万件で,そのほか側彎症検査などを行っている。
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低線量化のための更新でSCENARIA Viewを選定
総合健診センターでは2019年5月,外来診療や人間ドックで胸部を中心に使用してきた他社製の16列マルチスライスCTを,日立製の64列128スライスCT「SCENARIA View」に更新した。杉山部長は,更新の理由について,「CT検査では低線量化が課題でした。人間ドックの胸部CTをより低線量にすることはもちろんですが,学校保健を行っていることから,要精査で外来を受診した小・中・高校生の胸部CT検査も低線量化したいと考えていました。また,呼吸器外来の医師から,経過観察のCT検査で線量を下げたいとの要望も出ていました」と説明する。
装置選定では,複数メーカーのCTで,胸部ファントム画像を指定条件で撮影して比較した。特に重視したのがCTDIvol=0.5mGyの超低線量での画質であり,比較の結果,日立の逐次近似処理“IPV(Iterative Progressive reconstruction with Visual modeling)”を用いた画像が軟部組織でのノイズ低減とコントラスト分解能が最も優れていたことから,SCENARIA Viewの採用が決まった。杉山部長は,「低線量ですりガラス状陰影を評価できることに加え,縦隔もしっかりと評価できる必要がありました。若年者の場合は縦隔所見で要精査となるため,正常な胸腺の遺残なのか,縦隔腫瘍や先天性奇形なのかなどを診断できる高解像度が必要です」と述べる。
岩元課長と佐藤課長代理は,選定の過程で「日立メディカルフォーラム柏」を訪れ,実際にSCENARIA Viewの操作も体験した。岩元課長は,「寝台のモーター音は静かで,不安な気持ちで検査を受ける受診者のストレスも軽減できると思いました。撮影後すぐに画像が表示されることもわかり,実際に操作して使い勝手を確かめられたことも決め手の一つとなりました」と振り返る。
人間ドックでは1mGyの低線量胸部CT検査を提供
SCENARIA Viewへの更新後は,すべての検査でIPVを使用し,小児検査は全例低線量で撮影している。胸部撮影線量は,外来診療の通常線量でも以前と比べて3割ほど低減した。人間ドックでは1/5程度の線量で以前と同等以上の画質を取得できており,標準体型であれば1mGy前後のCTDIvolで撮影が可能になった。日本CT検診学会のガイドラインの指標である2.5mGyを十分に下回っており,現在は人間ドックのオプション項目の名称も“低線量胸部CT検査”と表示している。杉山部長は,「以前は複数の撮影線量のパターンを用意して受診者の喫煙歴や年齢,性別などのリスクに当てはめていましたが,今は一律に低線量での撮影が可能です。また,通常線量で撮影していたすりガラス状陰影の経過観察も,低線量撮影で対応できるようになりました」と述べる。
胸部CTはスライス厚0.625mmで撮影し,肺野は1mm,縦隔は5mmで読影している。杉山部長は画質について,「FBPに近い違和感のない画像で十分に満足しています。辺縁部も高精細に描出されていますし,画像ノイズとアーチファクトも抑えられているので,ストレスなく読影できます」と評価する。
一日あたりの検査数は,人間ドックで5件程度,午前・午後に呼吸器外来がある日は外来で15件程度行っている。人間ドックで“低線量”を明示するようになってからは,胸部CTを選択する受診者も増えた。SCENARIA Viewは,ワークフロー向上も特長の一つで,検査ではスキャン範囲を自動設定する“AutoPose”や,操作室から寝台を下げられる遠隔操作などを活用して,スムーズに検査を行っている。佐藤課長代理は,「気管に痰が写り込んだ場合は,ポリープを否定するために咳払い後にエリアを絞って追加撮影をしますが,撮影直後に画像を確認できるためすばやく追加撮影をできるようになりました。また,息止めの練習や時間表示が可能なブレスガイドは受診者の安心につながりますし,産業保健ではさまざまな国籍の方の検査を行うため,11か国語でナビゲーションできる機能も活用しています」と,検査におけるメリットを挙げる。
受診者負担が軽く確実なCTCに貢献する高速撮影
総合健診センターでは,CTを人間ドックの内臓脂肪検査と,2018年から開始したCT Colonography(CTC)にも活用している。CTCは,大腸内視鏡の挿入困難例や受診者の希望,小さなポリープの経過観察などで消化器外来からオーダされる。
杉山部長は,「実は,CTCが始まったこともCT更新の理由の一つでした。16列CTの時にもスライス厚0.5mmで撮影していたため,息止めが20数秒と長く大変な検査でした。高速撮影が可能なSCENARIA Viewでは,息止めは5〜6秒になり,楽に検査を受けられるようになっています」と話す。
CTCは腹臥位と背臥位で撮影するが,寝台幅が47.5cmと広いため体位変換をしやすく,また,80cmの広い開口径により腹臥位の両腕挙上で肘がガントリに当たるリスクも下がった。
岩元課長は,「CTC撮影では,スカウト画像で大腸が十分に拡張したことを確認次第,すぐに本撮影をしたいのですが,SCENARIA Viewでは,スカウト撮影から計画作成,本撮影開始までが非常に速く,良好なタイミングを逃さずに撮影できます」と述べる。
■SCENARIA Viewによる臨床画像
受診者にやさしい検査を県民のため最大限に活用
SCENARIA Viewの今後の展望について杉山部長は,「便潜血陽性の方に,次の段階としてCTCを提案できるのではないかと考えています。線量を抑えたCTCを提供できれば,大腸がんの早期発見・早期治療につながると期待しています。内視鏡に抵抗のある受診者の検査や経過観察をCTCにするなど,大腸検査にCTを活用する取り組みを消化器内科医と検討しています」と話す。
総合健診センターでは,低線量で質の高い肺がん検診を県民に安心して受けてもらうため,肺がんCT検診の施設認定の申請を近々予定している。これからもSCENARIA Viewによる低線量CT検査を若年者から高齢者まで幅広く提供し,県民の健康を守る役割を果たしていく。
(2020年10月21日取材)
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