Centricity Clinical Archive × 鳥取県地域医療連携ネットワーク(おしどりネット)
標準規約などを採用した広域ネットワークの構築により地域版EHRを実現し地域医療連携に貢献 ─SS-MIX2,IHEによる名寄せ管理サーバの開発や ネットワークの構築で地域医療の充実化を促進
2014-11-1
おしどりネット3の入口となるポータル画面
(近藤教授提供)
鳥取県では,2014年4月から「鳥取県地域医療連携ネットワーク(おしどりネット3)」が稼働した。おしどりネット3は,医療情報の世界と日本の標準規約を採用し,そのゲートウェイ(GW)と「名寄せ管理サーバ」を開発したことで複数の医療機関の患者IDを統合したほか,拡張性にも優れている。また,SBC(Server Based Computing)による仮想環境を構築し,高速で各種診療情報を参照できるのも特長である。このネットワークにおいて,GEヘルスケア・ジャパンの統合画像管理・参照システム「Centricity Clinical Archive(CCA)」が導入され,診療に活用されている。そこで,おしどりネット3の構築に当たって中心的な役割を担った鳥取大学医学部附属病院医療情報部長の近藤博史教授を取材した。
SS-MIX,IHEを採用した医療連携ネットワークを運用開始
鳥取大学医学部附属病院など11施設間では,診療情報を共有するおしどりネット3の運用を2014年4月から開始した。おしどりネット3には同院のほか,西伯病院,錦海リハビリテーション病院,日野病院,日南病院,岩美病院,米子東病院,真誠会診療所,鳥取県立中央病院,鳥取市立病院,鳥取生協病院が参加している。その後,参加施設が増え,2014年10月時点では,8病院の電子カルテやDICOM画像などの診療情報を,8病院を含む14医療機関の職員が参照できる。
おしどりネット3の特色は,標準規約を採用したことによるマルチベンダーでの親和性と拡張性の高い地域医療連携ネットワークということである。医療情報システムの標準規格には,放射線画像のDICOMや,オーダなどの医療情報を交換するためのHL7といった規格があり,これらを用いて医療機器や医療情報システムの相互互換性を可能にするためのIHE(Integrating the Healthcare Enterprise)という国際的な活動がある。IHEでは,相互接続性を実現するために,業務シナリオである「統合プロファイル」として標準規約の適用についての「ガイドライン」を策定している。また,わが国では,こうした国際的な標準化の動きに合わせて,厚生労働省を中心に医療情報交換のための標準化推進事業であるSS-MIX(Standardized Structured Medical Information eXchange)に取り組み,現在,SS-MIX2へと発展している。SS-MIX2では,地域医療連携ネットワークを構築するために,標準形式・コード・構造でデータを蓄積する「SS-MIX標準化ストレージ」を用いる。おしどりネット3では,このSS-MIX2とIHEという日本と世界,それぞれの標準を用いて構築されている。
さらに,特徴として,おしどりネット3はIHEに準拠した名寄せ管理サーバで患者IDを統合したことや,シンクライアント・システムのひとつであるSBC(Server Based Computing)を基盤に導入したことが挙げられる。SBCはサーバ側で画面作成し送付するため,通信負荷が小さい。端末も低機能で画像表示でき,端末に実データがないのでセキュリティも高い。
おしどりネット3の構築に尽力した近藤教授は,そのコンセプトを次のように説明する。
「おしどりネット3では,多数の医療機関を結ぶ広域の地域医療ネットワークの構築をめざしています。個々の医療機関は異なるベンダーの電子カルテシステムやオーダリングシステム,PACSがすでに稼働していますが,これらの情報を共有するために,SS-MIX2やIHEの統合プロファイルなどにより標準化されたネットワークにして,相互の接続性を高め,拡張性のあるものにしました。また,シンクライアントで運用できるようにすることで,セキュアな環境で高い安全性を確保しました」
鳥取県では,このおしどりネット3が稼働し始めたことで,地域医療連携の充実が進んでいる。
名寄せ管理サーバの開発といった進化を続けるおしどりネット
おしどりネットは,2009年7月に,「鳥取県西部地区医療連携ネットワーク」としてスタートした。そこからさかのぼること約6年前の2003年12月,鳥取大学医学部附属病院では国立大学病院の先陣を切って,全病棟での電子カルテシステムの運用を開始している。同院では,2008年におしどりネットのベースとなるシンクライアント環境での電子カルテシステムが稼働し始めた。日本初となるシンクライアント型電子カルテシステムは,SBCをコンセプトとして設計されている。
このシステムでは,電子カルテシステムなどのサーバとシンクライアントとなる各端末の間に,「中間サーバ」と呼ばれるSBCサーバを設置する。この中間サーバには,アプリケーションを実行するためのミドルウエアである「GO-Global」が実装されており,端末から仮想的に電子カルテシステムを操作できるようにしている。院内の各端末では,電子カルテシステムを操作していても,実際の処理は中間サーバで行われている。処理結果がモニタ画面に表示されるが,実データが端末に転送されるわけではない。このような仕組みで運用できるため,システムのウイルス感染や情報漏えいのリスクが少なく,安全に機微な診療情報を扱うことができる。また,端末にアプリケーションがないため,システムの管理も容易である。加えて,SBCサーバで処理を行うため,端末は高性能なPCでなくても運用できるといったコスト面でのメリットも大きい。
SBCでのシンクライアント型電子カルテシステムが稼働する中,連携先の医療機関である西伯病院で富士通製電子カルテシステムが稼働し始め,自治体や西伯病院の関係者から,両院の電子カルテシステムを相互に参照できるようにしたいという提案があった。そこで,近藤教授らが中心となり,西伯病院にもSBCサーバを設置し,県が構築した光ファイバ網である鳥取情報ハイウェイを利用して,VPNで診療情報を参照できるようにした。これがおしどりネットの始まりである。実際の運用では,相互に利用者登録を行い,申請のあった患者さんの電子カルテシステムのデータを参照できるようにした。その後,2011年には,錦海リハビリテーション病院もおしどりネットに参加。大学病院の電子カルテシステムを参照し始めた。
このようにして,おしどりネットが鳥取県西部地区の地域医療連携ネットワークとして広がり始めたころ,地域医療再生基金の交付を受け,鳥取県内の医療機関20施設を結ぶ医療圏をまたいだ広域ネットワークを構築することが決定された。ネットワークはおしどりネットがベースとなるが,連携する医療機関が増加すると,利用者登録の管理方法などに支障が出ることが予想された。そこで,複数の医療機関にまたがる患者情報を管理するための名寄せ管理サーバや患者同意管理システム(セコム山陰製)が新たに用意された。これにより,診療情報は各病院のサーバで保存し,その接続を名寄せ管理サーバで管理する。このおしどりネット2では,名寄せ管理サーバが各施設の利用者(職員)と患者IDを管理し,利用履歴を記録する。情報提供する施設の電子カルテシステム・PACSサーバは,鳥取情報ハイウェイなどのVLAN上のVPN経由で,センター側で施設ごとに用意されるSBCサーバ上の端末ソフトに接続する。利用者は,自施設の端末からポータルサイトで認証を受け,登録された自施設の患者を選択し,患者が登録された施設を選択する。すると各施設用のSBCサーバに接続され,その施設の患者のカルテとPACS画像を参照するようにした。従来のネットワークを拡張する形で構築されたおしどりネット2は,3病院に加え日南病院,日野病院,岩美病院の6病院間で,2012年5月から運用を開始した。
さらに,その後,地域医療再生基金により,おしどりネット3へと拡張を図ることになるが,SS-MIX2の採用が基金交付の要件となった。そこで,近藤教授らは,SS-MIX2とIHEを用いたネットワークを構築することにした。
近藤教授は,「シンクライアント型ネットワークは,新しい技術を採用しているため,電子カルテシステムが対応できないことがありました。また,更新のたびに改造が必要であること,利用者が各社のシステムの操作を理解する必要があることが問題でした。おしどりネットの拡張性を担保するためには,データやシステムの標準化が必要でした。そこで,おしどりネット3では,標準化を重要なテーマとして,各施設のデータをSS-MIX2とDICOMで保存し,それを世界標準のIHEに吸い上げることにしました」と説明する。
こうして生まれたのが,おしどりネット3である。
高いセキュリティを保ちつつ速いレスポンスを実現
おしどりネット3では,連携する医療機関のうち6病院において,電子カルテシステムなどの診療データをSS-MIX2,PACSの画像をDICOM形式で,それぞれの病院のサーバに保存している。これを共有するために,IHEの統合プロファイルは,施設間での情報共有するためのXDS (Cross-Enterprise Document Sharing),DICOM画像を共有するXDS-I(Cross-Enterprise Document Sharing for Imaging),患者基本情報を参照するためのPIX(Patient Identifier Cross-Referencing),システム間の時刻同期をするCT(Consistent Time),セキュリティを確保する監査証跡のためのATNA(Audit Trail and Node Authentication)を採用している。SS-MIX2のサーバとPACSサーバのデータはそれぞれGWを介することで,XDSとXDS-Iのデータとして運用される。また,おしどりネット2で運用していた名寄せ管理サーバをPIXサーバに接続し,XDSとXDS-I,各GWと標準規格で連携するようにした。
具体的な例として,紹介検査における画像連携でのデータの流れを説明する。
紹介元であるA病院からB病院への検査の紹介が行われる場合,まず患者さんは,A病院でおしどりネット3への参加について申請書に署名する。申請書は,患者情報が同姓同名,同じ生年月日の場合があることから,運転免許証番号,携帯電話番号など特定できる情報を記載する欄を設けている。この情報がA病院から名寄せのためのデータベースに登録され,B病院で参照し,B病院の患者IDと患者を確認するという責任分散型オンライン処理にした。
患者確認が終了すると,過去1年間のSS-MIX2データと3D画像作成用のthin slice画像を除く1年間のDICOM画像がセンター側のGWに吸い上げられ,複数施設のデータが統合IDでまとめてXDSとXDS-Iサーバに保存される。その後,GWは毎日,登録患者の新たなデータが各施設のサーバにあれば吸い上げる。
紹介先のB病院では,担当する医師がおしどりネット3のポータルを起動して,利用者認証後,患者選択し統合サーバを選択すると,各病院のデータを統合して表示する。患者基本のアレルギー情報などは施設別に表示するが,検査,処方などのオーダ情報や退院時サマリー,医師記録,患者記録は発生した日時で時系列表示する。検査結果は,基準値外のものは赤色で表示する。画像に関しても,全施設のデータをモダリティ別に時系列にサムネイルで表示し選択すると,GEヘルスケア・ジャパンの「Centricity PACS」のWebビューアが起動して,画像を表示する。検査時に診療放射線技師も同様に,病院端末から参照できる。紹介元のA病院でもB病院の紹介後の診療内容や検査画像を同様に参照できる。
このような運用は,鳥取情報ハイウェイ接続の施設ではVLAN上にVPNとSBCを介して,インターネット接続医療機関ではVPNとSBCを介して高いセキュリティを保ちつつ,速いレスポンスで実現しており,安全・安心,かつストレスフリーの情報共有を可能にしている。
医用画像などを一元管理し容易に参照できるCCAを採用
おしどりネット3におけるSS-MIX2の診療情報を参照するための仕組みであるXDSとPIXは米国IBMが開発しカナダで稼働したのものを,XDS-IはヨーロッパでGEヘルスケアが開発しベルギーで稼働のものを導入した。日本標準のSS-MIX2からXDSに変換するGWとXDSビューアは日本IBMが開発し,DICOMのGWと“PIV”と呼ばれるXDS-IビューアはGEヘルスケア・ジャパンが開発した。同社では,このXDS-IビューアをCCAのクライアントアプリケーションとして,地域医療連携を推進するソリューションを展開している。鳥取大学医学部附属病院では,その前身のシステムである“マトリックス・ビュー”を2008年から運用し,画像レポート,病理レポート,生理機能検査結果やスキャンデータの表示に利用していたが,CCAも統合画像管理・参照システムとして,DICOM画像だけでなく,内視鏡や病理検査画像,所見レポート,紹介状などの各種文書を一元的に管理し,連携する医療機関で共有できるようにする。
おしどりネット3で利用されているXDS-Iビューアでは,患者さんごとにDICOM画像の各種データを画面から確認できる。画面のレイアウトは,縦軸に日付,横軸にデータ種別といったマトリクス形式で構成され,各種データのサムネイルが表示される。そのため,利用者は参照したい情報をすぐに選択することが可能である。また,ウインドウのレイアウトも画像・文書に応じて,利用者の見やすいように設定して表示することが可能である。おしどりネット3では,利用者がXDS-Iビューアのマトリクス表示から参照したいデータを選択するとCentricity PACSのWebビューアが起動して,展開することができる。XDS-Iビューアは,もともとサーバサイド処理のもので,DICOM画像を転送するものではないので速いが,このシステムではXDS-IビューアとWebビューアがSBC上で処理を実行しているため,より速く表示でき,あたかも院内のPACS画像を参照しているようである。
CCAの特長は,IHE XDSに準拠した製品であることである。これにより,マルチベンダーでの地域医療連携ネットワークが容易に構築できる。わが国では,これまでも各地で地域医療連携ネットワークが整備されてきたが,ベンダーの独自の仕様によって構築されてきたために,コストがかかり,また拡張性の点においても,異なる規格・仕様のシステムなどにより接続が難しかった。その点CCAは,毎年日本IHE協会が開催しているマルチベンダー間での相互接続試験である「コネクタソン」において,他社製品との間で高い整合性を確保していることが証明されている。近藤教授は,「SS-MIX2とIHEによる標準化された地域医療連携ネットワークを構築する上で,XDS-Iでの画像共有は主要な目的のひとつでした。そこで,実際に稼働しているものを採用したいと考えました」と説明する。
IHEとSS-MIX2という,世界と日本の標準を用いて地域医療連携ネットワークを構築したことにより,おしどりネット3は,さらなる拡張性を持つことができた。今後,拡大が予想される地域同士の連携などを考慮すると,標準化への対応は,システム選定において,今まで以上に重要な要件になると言える。
拡張性の高さを生かしさらに広域のネットワークへ
2014年から本格的に稼働したおしどりネット3は,従来のおしどりネットよりも,さらに利用される機会が増えている。おしどりネットでは,初期の2病院間での連携の段階から毎月協議会を開催し,担当者が利用状況の報告やシステム改善のための話し合いを行ってきた。この協議会の場が,ネットワークの進化だけではなく,病院間のコミュニケーションの活発化にもつながり,地域医療連携の絆を強くしている。
SS-MIX2とIHEを採用したことにより,おしどりネット3は拡張性の高いネットワークへと進化した。近藤教授は,「医師会とも協力し,診療所も含めて県内すべての医療機関を結ぶネットワークへと広げていく予定です」と,今後の構想について述べる。さらに,鳥取県内だけでなく,隣接する岡山県の「晴れやかネット」や島根県の「まめネット」との連携も視野に入れている。
SBCや名寄せ管理サーバでの患者IDの統合,SS-MIX2,IHEの採用による標準化で,おしどりネットは「地域版EHR(Electronic Health Record)」として機能している。これは今後,全国各地で構築されていく地域医療連携ネットワークの手本となるケースだと言えよう。
(2014年9月12日取材)
*Centricity Clinical Archive,Centricity PACSは,非医療機器です。
本記事はインナービジョン社がGEヘルスケア・ジャパンの依頼に基づき行った,おしどりネットに対するインタビューを同社の同意を得て編集したものです。