Senographeシリーズ × 日本医科大学付属病院 / 聖路加国際病院
FPDのパイオニアが選択したデジタルマンモグラフィの最適バランスというコンセプト ─FFDM国内トップシェア「Senographeシリーズ」と共に歩む「Tokyo GE Mammography User' s Meeting」
2012-8-1
ディスカッションの様子(第7回)
FPD開発のパイオニアであるGEが2000年に世界初のFFDM「Senographe 2000D」を発売してから,10年以上が経過した。マンモグラフィのデジタル化は急速に進み,今や90%近くに達している。そのうちFPD方式のFFDM(full field digital mammography)は約15%の普及率となっているが,今後も増えていくことは確実である(インナビネット「モダリティ・ナビ」調べ)。
FFDMの黎明期であった2000年代前半に,デジタルマンモグラフィを理解し使いこなすために,Senographe 2000Dのユーザーが自発的にユーザー会を発足させ,2012年で15回を数えるに至っている。今回は,発起人であり世話人を務める日本医科大学付属病院の小林宏之氏と聖路加国際病院の小山智美氏を中心に,ユーザー会について,また,両院のFFDM Senographeシリーズについてお話をうかがった。
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●アナログからデジタルへ ─急速なマンモグラフィのデジタル技術革新
GEが世界初のFPD搭載デジタルマンモグラフィシステム「Senographe 2000D」(間接変換方式・ピクセルサイズ100μm)を発売した2000年当時は,マンモグラフィのゴールドスタンダードと言えばフィルム-スクリーン(F/S)システムのアナログ装置であり,CR方式のデジタルマンモグラフィが普及し始めていた頃である。その後,複数のメーカーから直接変換方式FPDで,ピクセルサイズが85μm,70μm,50μmのFFDMが次々に発売され,デジタルマンモグラフィに占めるFFDMの普及率は向上していった。また,読影に関しても,画像診断のフィルムレス化の普及に伴い,マンモグラフィにおいても従来のフィルム診断から,FFDMの特性を生かせるモニタ(ソフトコピー)診断への移行が急増している。
マンモグラフィ検診の精度管理を行うNPO法人マンモグラフィ検診精度管理中央委員会(精中委)においても,デジタルマンモグラフィの普及を受けて新画像評価基準を作成し,2004年から施設画像評価を開始した。
●2000Dユーザー会発足 ─ユーザー主導でFFDM撮影技術を研鑽
2000Dの国内第1号機は,発売直後に日本医科大学付属病院に導入され,聖路加国際病院は2004年に同装置を導入した。新しいシステムであるFFDMの有用性や信頼性が未知数ななか,初期に導入した両院で撮影にあたっていた診療放射線技師の小林氏と小山氏が発起人となり,2000Dのユーザーを中心とするユーザー会(現在の名称は「Tokyo GE Mammography User's Meeting」)を発足させ,2004年3月に第1回を開催した。発足の背景を小林氏は次のように語る。
「2000D導入当初は本当に手探りの状態でした。アナログのF/Sシステムとはかなり違う画像が出てくるため,使い方は正しいのか,この画像で良いのかと,とても悩みました。第1号機だったため他施設にも相談できず試行錯誤しながら取り組んでいた頃,2004年に2000Dを導入した小山氏からユーザー会の相談を受けました」
相談を持ちかけた小山氏は,「2000D導入当初は,うまく使う方法がわからず,ユーザー同士の情報交換が必要だと痛感していました。当院の寺田正巳氏にも手伝ってもらって,導入後間もなくユーザー会を立ち上げることができました。回を重ねるごとに参加者も増え,100名を超えるようなこともありました。初めは小林氏と2人でやっていましたが,GEの方の助けを借りたり,当院のスタッフを入れて運営し,ここまで続けてきています」
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●情報を共有し,ユーザー同士をつなげる
東京からの参加を中心に,多くのユーザーが集まるユーザー会は,毎回2,3題のテーマを設定。施設発表やディスカッション,撮影方法・精度管理・装置についての講演など,その内容は多岐にわたる。ユーザー会の役割について小林氏は,初めのうちは“お悩み相談室”としての役割が大きかったと話す。
「FFDMのユーザーが少ないので,誰にも相談もできず,悩みや不安を抱えていました。ユーザー会はおのずと,悩みを共有し解決を探る場となり,また,メーカーであるGEには,FFDM装置の仕組みなどについて一から説明してもらいました。その後は,デジタルならではの撮影法やポジショニングが内容に追加され,アナログからデジタルへ,フィルムからモニタへと変化する,急速な技術革新に合わせてテーマを設定してきました。会を通して,電話やメールで相談できるユーザー同士のネットワークができたことも大きな成果だと思います」
強力なサポーターである寺田氏は,「少人数でFFDMを担当している施設もあり,撮影法が確定するとそれ以上の成長は難しいのだと思います。そのような現場にいる技師は情報に飢えており,情報を共有し,自分の意見を言える場をユーザー会に求めているのではないでしょうか」と,参加者の心情を推測する。
小山氏は,「同じ装置を使うユーザーが,同等の精度で画像を出せるようになるために,一緒に努力していきましょうという思いで取り組んでいます」と,ユーザー会にかける思いを語った。
●基本を繰り返し学び,次世代を育てる場に
ユーザー会は回を重ねるごとに,経験の浅い若い参加者も増えているという。小林氏はユーザー会の今後について,「一から学びたいという若いユーザーのために,基本的な装置の使い方やポジショニングなどのテーマは継続していくつもりです。装置をよく理解しながら使うことの重要性を若い人たちに伝えていきたいと思います」と話す。
小山氏は,「最近の若い技師は,アナログの経験がなくデジタル画像しか見ていないため,画像の良し悪しを判断できず,また,照射線量や被ばくへの関心が低い傾向が見られます。そういった若い世代を育てていくことも,われわれの役割だと感じています」と語った。
FFDMによる乳がん検診や診療の質の向上に確実につながるであろうユーザー会の果たす役割は大きい。次回は10月に開催予定で,多くの参加が見込まれる。
●反響を呼んだFFDMの画像評価の研究発表
高分解能を求められるマンモグラフィにおいて,2000Dの間接変換方式,ピクセルサイズ100μmというFPDのスペックが他社の直接変換方式のFPDと比較して論じられることは多いが,複数のメーカーのFFDMを客観的に性能評価した研究は少ない。そんななか,画像評価についての興味深い研究が日本医科大学付属病院の古崎治子氏を筆頭演者として,第21回日本乳癌検診学会学術総会にてポスター発表され,第15回のユーザー会でも報告されて話題となった1)~3)。
●臨床にできるだけ近い方法での比較検討:実験内容と結果
FFDMの性能評価は,画像処理効果を含まないディテクタのみのDQE(検出量子効率)で議論されることが多いが,臨床画像はディテクタ性能,撮影条件,画像処理など複数の要素から構成されることを踏まえ,次のような検討を行った。
他施設の協力のもと,現在市販されている8装置を対象とし,マンモグラフィ用CD-MAMファントム*1+PMMA 4cmを被写体に,各施設が普段の臨床で使用しているAutoモードもしくはAEC(+)設定で撮影を行い,5MPのモニタ(MammoRead)で,10名の技師により評価検証を行った。その結果,AECの設定は装置や施設により異なり,撮影線量は最大で約3倍の差が認められた(表1)。IQF inv*2を用いて比較評価を行ったところ,“装置E”が最も高い結果となった(図1)。
次に,AECの設定の違いによる線量差の影響を排除するため,IQF値を平均乳腺線量(AGD)で除したところ,“装置A”が最も高い評価となった(図2)。また,実験2として,撮影管電圧はAutoのまま,AGD=1.25mGyを基準値とし,その1/2線量(0.65mGy)と2倍線量(2.5mGy)に設定して観察評価を行ったところ,どちらの線量でも“装置A”が最も高い評価となった(図3)。
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●被ばくと画質のバランスを考えた総合的な評価が重要
この研究のきっかけや結果について,古崎氏は次のように話す。
「FFDMは,直接変換方式で細かいピクセルサイズの装置ほど画質が良いという声をよく聞き,当院の間接変換方式・ピクセルサイズ100μmの装置と比べて客観的に評価したいと考えたのが最初です。この検討は,専用ビューワで最適画像処理を行うシステムや,ハードコピー運用適応の画像処理を行っている施設も含まれているため,各FFDMの最高スペックを比較するものではありませんが,かなり実際の臨床に近い客観的な結果ではないかと考えています。検討の結果,変換方式やピクセルサイズ等の装置性能を気にするよりも,ポジショニングなど撮影技術を磨く必要があると感じました」
研究を指導した小林氏は,「装置を見比べる際には,個々のスペックに目がいってしまいがちですが,最終的なアウトプットは,撮影条件や画像処理も含めた総合的な画像です。この検証は,その認識のもとに行いました。また,被ばく(撮影線量)と画質はトレードオフの関係であり,AEC設定による撮影線量に応じた画質の比較を行うことで,臨床現場でそのバランスが保たれているかを調べることがテーマでした。この結果から,X線利用効率や被ばく,線量,画像処理まで含めて,総合的なバランスで考える必要性が理解できるのではないでしょうか」と述べた。
*1 CD-MAMファントム:直径0.1~3.2mm,厚さ0.05~1.5μmのプラチナが1マスに2個ずつ埋め込まれた,厚さ3mmのアクリルで覆われたファントム
*2 IQF inv:CD-MAMファントム内信号の各コントラストにおける最小識閾径の積分値であり,IQF invはその逆数で高画質であるほど値が高くなる。
●参考文献
1) 古崎治子,小林宏之,村上隆介・他:国内で臨床使用されているFFDMの画像評価(第1報). 第21回日本乳癌検診学会学術総会, 一般演題ポスター, 2011.
2) 小林宏之,古崎治子,村上隆介・他:国内で臨床使用されているFFDMの画像評価(第2報). 第21回日本乳癌検診学会学術総会, 一般演題ポスター, 2011.
3) 古崎治子,小林宏之,土橋俊男・他:国内で臨床使用されているFFDMの画像評価. GE today, 40, 44~47, May, 2012.
Senographe DS LaVerite
日本医科大学付属病院
●FFDM国内1号機を導入し,多様な検討を実施
日本医科大学付属病院は,2000年に「Senographe 2000D」(以下,2000D)の国内第1号機を導入した。2000Dは,アモルファス・シリコン(a-Si)タイプの間接変換方式,ピクセルサイズ100μmの装置で,高いDQEと被ばく低減を実現した,世界初のFFDMであった。しかし,精中委がアナログマンモグラフィを推奨し,FFDMのエビデンスも確立していなかったなかでの導入は,大きな決断であったことだろう。小林氏は,当時を次のように語る。
「FFDM国内1号機ということで注目を集めますし,襟を正して取り組み始めました。当院がモニタ診断に移行した2010年まではフィルム出力でしたが,F/SシステムやCRとまったく違う画像が出てきて,とても悩みました」
小林氏はF/SシステムやCRの画像との比較検討を重ね,エビデンスを確認しながらFFDM撮影の自信を付けていったという。FFDMの最初の印象について小林氏は,「鮮鋭性ではやはりF/Sシステムに劣りますが,撮影線量をだいぶ落とすことができました。さまざまなデータを取ったところ,最終的な視覚評価では,F/Sシステムと比べて大きく劣るわけではないという印象でした」と述べる。
●画質が大幅に改善された「Senographe DS LaVerite」
その後,同院ではマンモトーム生検実施を目的に2009年「Senographe DS LaVerite」(以下,LaVerite)を導入し,2000Dと2台での運用となった。建物構造の関係で2台を離れた部屋に設置しており,10年以上が経過している2000Dも安定稼働している。装置の進化による画質の変化について小林氏は,「LaVeriteは,2000Dと比べ鮮鋭度が非常に上がり,石灰化が際だって見えます」と,画質の向上を強調し評価した。
●診療を大きく変えたFFDM「Senographeシリーズ」
同院のマンモグラフィは,外部からの精査依頼や乳腺症のフォローアップ,術前術後に施行しており,1日に10件前後の検査を女性技師が担当している。操作室には専用ビューワ「SenoAdvantage」を設置し,読影医は同ビューワまたは5MPモニタにて読影を行っている。
撮影を担当する古崎氏は,2000DとLaVeriteについて次のように話す。
「CRに比べて読取時間がなくなり,すぐにコンソール上に表示される確認画像で,再撮影の判断がすぐにできるため,スループットが格段に向上しました。ほとんどオートで撮影が可能で,エラーも出ません。100μmは5MPモニタに等倍で表示でき,拡大表示も可能なため,モニタ診断になってからは,追加撮影の判断や一次チェックでとても有用だと感じています」
最後に,FFDMのパイオニアとして小林氏は,「FFDMは間違いなく診療の質を上げたと思います。アナログのF/Sシステムの課題だったデンスブレストへもアプローチできるようになり,被ばく線量もF/Sシステムと比べて半分くらいまで落とすことが可能です。われわれ技師は,進歩する技術を吸収して,画質とのバランスを考えながら線量低減に努めることを常に忘れずにいるべきだと考えます」と語った。
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日本医科大学付属病院
住所:東京都文京区千駄木1-1-5
TEL:03-3822-2131
病床数:960床 診療科:37
http://hosp.nms.ac.jp/
Senographe Essential
聖路加国際病院
●FFDMを導入し,フィルムレス化を実現
聖路加国際病院では2003年から病院全体のフィルムレス運用を開始したが,マンモグラフィに限り,アナログ装置によるフィルム出力を続けていた。2004年1月,聖路加タワー内に聖路加国際病院附属クリニック・予防医療センター(以下,センター)が,完全フィルムレスをコンセプトに開業。それを機に,CRに代えてFFDM「Senographe 2000D(以下,2000D)」を2台導入し,高精細5MPモニタを用いたモニタ診断を開始した。
当時,センターの責任者だった寺田氏は,導入の経緯を次のように述べる。
「フィルムレスという観点から,2000D以外の選択肢は考えられませんでした。スループットの良さも期待して,1台につき1時間あたり約10人の撮影が可能だと見込んでいました。また,当時は空調がタワーで一元管理されていたため,耐熱性の高い間接変換方式が適していると判断しました」
●優れた画質で評価の高いEssentialにリプレイス
2011年7月に,2000Dの1台を他社のFFDMに,9月にもう1台を「Senographe Essential(以下,Essential)」に置き換えた。Essentialは,2010年に発売されたGE社のマンモグラフィ最上位機種で,将来性・拡張性のあるプラットフォームを持つ。
Essentialの特徴について,小山氏は,「2000Dとの違いの1つに,ミラーリング機能(MLO撮影で,R側L側で対称的なMLO角度に設定できる機能)が挙げられます。導入前は,角度の微調整や安全性,スループットなどの面で不安に思うこともありましたが,適度なスピードでスムーズに動いてくれるので,まったく心配不要でした。また,次の曝射までの時間が速いため,スループットも落ちませんでした」と話す。
FPDサイズ(24cm×30cm)やブラインドエリアが2000Dから変わったため,ポジショニングに工夫が必要だが,そのポイントをユーザー会で共有し,撮影技術の向上につなげたいと小山氏は言う。また,画像については,「“Premium View”の搭載により,4段階の画像強調処理が選べるなど,他社装置と比べてもモニタ診断に適した処理が行われていると思います。読影医も,画質が向上して読影しやすいと評価しています」と述べた。
●確かな技術を習得して,自信の持てる画像を提供する
現在同院には,精中委の認定資格を持つ診療放射線技師が17名おり,そのうち12名の女性技師が,病院とセンターのマンモグラフィを担当している。乳がん検診は受診率50%の目標が掲げられて受診者が増えていることもあり,マンモグラフィ検査室を女性専用とするなど,受診者に配慮した環境を整えている。
最後に両氏に,マンモグラフィおよび乳がん診療に対するポリシーを聞いた。寺田氏は,「どんなに優秀な医師でも,写っていないものを見ることはできません。装置の性能に加えて,乳腺を全部描出する技師の努力が必要です」と話す。
小山氏も,技師は技術が一番重要だと指摘する。「“自分が撮影して写っていなければ所見はない”と言えるような責任の持てる診断価値の高い画像を提供できるよう,常に勉強し技術を磨くことが大切だと思います」
聖路加国際病院
住所:東京都中央区明石町9-1
TEL:03-3541-5151
病床数:520床 診療科:38
http://www.luke.or.jp/
(2012年6月25~27日取材)