TOPICS 日立MRIフォーラム 2016 in Tokyo
当院のMRI撮像の現状
西村 祥循(日本医科大学武蔵小杉病院放射線科)
臨床講演(ユーザー発表)
2017-4-25
1937年に日本医科大学付属丸子病院として開設された当院は現在,29科(臓器別診療科)372床の3次救急まで対応する中核病院として医療を提供している。2013年3月に日立製作所社製1.5T MRI「ECHELON OVAL」を導入し,現在2台体制でMRI検査を行っている。本講演では,当院におけるMRI検査の現状と,ECHELON OVALを用いた検査の実際について,症例画像を提示しながら紹介する。
当院のMRI検査の現状
当院では,ECHELON OVALと2002年に導入した他社製1.5T MRIの2台でMRI検査を実施している。診療放射線技師21名のうち4名がローテーションでMRI検査を担当し,日常業務は2名で行っている。
MRI検査は2台で,年間約4500件,1日平均20件を施行し,振り分けはほぼ半々である。検査部位の内訳は,58%が頭部,次いで腹部,骨盤,脊椎などである。
ハードウエアの特長を活用した検査
●四肢撮像
ECHELON OVALは,開口径が74cm×65cm,天板幅63cmの楕円形大開口径ボアによる開放感が,大きな特長である。他社製MRI(開口径60cm,天板幅50cm)と比べ,ポジショニングが容易であり,被検者も楽な体位で検査が可能となる。
特に,天板が広いため四肢のセッティングが容易で,磁場中心により近い位置での撮像が可能である。例えば,手指撮像においても,体幹部を斜めにするような不自然な体勢を保つ必要はなく,ある程度体格の大きな被検者でも体の横に腕を下げた自然な姿勢で検査ができ,被検者の負担が減るとともに,体動を抑えることができる。
また当院では,肘の検査に膝用の12ch Extremity coilを使用している(図1)。コイルに腕を通すだけでセッティングがしやすいことに加え,パラレルイメージングに制限がなく,どの方向にも使えることが利点である。
●頭頸部撮像
頸部撮像では,22エレメント15chのNV coilを用いて広範囲MRAを撮像している(図2)。感度域が広く,大動脈弓部を含めても頸動脈を十分に描出することができる。心電図同期も不要で,パラレルイメージングが可能なため,撮像時間の短縮が可能だ。頭頸部検査もNV coilを用いることで,頭部MRIから頭頸部MRAの一連の撮像を30分以内で終えることができる。
アプリケーションを活用した検査
●MRS
MRスペクトロスコピー(MRS)は,体内のごくわずかな代謝物の信号を検出して周波数解析することで,スペクトルで生化学情報をとらえることができる。ECHELON OVALには,コンソール上で簡単に操作できる“ワンクリックMRS/CSI”と解析ソフトウエアであるLC-Modelが採用されている。
MRSによる代謝物の分布を二次元的に計測してカラーマップ表示するのがchemical shift imaging(CSI)である。転移性脳腫瘍の症例(図3)では,指定されたボクセル(b)のスペクトログラム(a)を見ると,正常でピークを示すコリン(Cho),クレアチン(Cr),NAAが抑制され,ラクテート(Lac)がピークとなる脳腫瘍の典型的な所見が示されている。
なお当院では,シングルボクセルのMRSや,左右対称に計測・解析を行うデュアルボクセルのMRSも行っている。
●RADAR
ECHELON OVALに搭載されたRadial Scan“RADAR”は,k-spaceデータを回転状に収集することで体動,呼吸,脈拍などにより発生するモーションアーチファクトの収束方向を拡散するとともに,常にk-space中心部のデータを取得することによる積算効果でアーチファクトを低減する手法である。従来のRadial Scanでは,T1強調画像もFSE法で撮像していたが,RADARは1エコーでRadial Scanが可能なことからSE法を適用できるため,モーションアーチファクトを抑えた良好なT1コントラストの画像を得ることができる。
RADARを活用した検査が,プラークイメージングである。プラークの性状を鑑別する画像には,高T1コントラスト,拍動アーチファクトの抑制,血流信号の抑制が必要である。プラークイメージング法について,非同期SE法,同期併用SE法,RADAR-2D SE法を比較した検討1)では,RADAR-2D SE法がT1コントラスト,血管壁描出,血流信号抑制のすべてにおいて良好であったと報告している。
頸動脈プラークイメージング撮像の位置決めではMRAのMIP画像を用いて,総頸動脈から内外頸動脈の分岐部を中心に設定する。ECHELON OVALのコンソール上で,血管と近傍の軟部組織(胸鎖乳突筋など)にROIを囲むと,出血性プラークは赤,脂肪性プラークは黄,線維性プラークは緑に色分けされたカラーマップが表示される(図4)。
RADARは,パラレルイメージングと併用することもできる。k-spaceデータを平行に収集するCartesian Scanと同等の空間分解能をRadial Scanで得ようとすると撮像時間が延長するが,時間短縮のためにETLを増やすとコントラストに影響が出る。そこで,ETLを維持したままパラレルイメージングを用いることで,コントラストを保ちつつ撮像時間を短縮することが可能になる。当院では,RADARをルーチン検査に活用し,呼吸同期も併用することで,SNR,分解能共に良好な画像を取得している。
●BeamSat TOF
MRAの血管描出法である3D TOFは,側副血行路による血流など複雑な血行動態の描出が難しいという欠点があった。ECHELON OVALに搭載されたBeam
Sat TOFは,特定血管の信号を抑制して3D TOFと併用することで,頭部の複雑な血行動態を非造影で描出することができる。
直径30mmのペンシルビーム型プリサチュレーションパルス(BeamSatパルス)を印加することにより,目的血管の走行に沿った選択的信号抑制が可能である。抑制領域は目的血管に対して局所的であるため,椎骨動脈(VA)や中大脳動脈(MCA)など近傍血管の描出への影響が少ない。
(1)設定方法
BeamSat TOFの撮像では,位置決めが重要である。まず,MRAの元画像とMIP画像を確認しながら,目的血管が最も良好に描出されているスライスを決定し,選択血管にBeamSatの角度を合わせる。このとき,ウィリス動脈輪を含むほかの血管の信号は抑制されないように注意が必要で,各方向からBeamSatの印加範囲を確認しながら左右の位置,角度,高さを設定する。
(2)症例提示
症例(44歳,男性)は,右内頸動脈(R-ICA)狭窄に対する外来内服加療中に左半身麻痺を生じ,SPECTでR-ICA狭窄による一過性脳虚血発作と診断された。そこで,右浅側頭動脈(R-STA)-右中大脳動脈(R-MCA)バイパス手術予定となった。
術前MRAのMIP画像のBeamSatなし(図5 a)では,R-ICAに狭窄所見はあるものの,R-MCAはわずかに描出される。R-ICAにBeamSatを印加すると,R-MCAが左内頸動脈(L-ICA)系からウィリス動脈輪を介して描出されていることがわかる(図5 b)。L-ICAにBeamSatを印加すると,R-MCAを含めたウィリス動脈輪より末梢の血管が描出されないことから,ウィリス動脈輪の血流はL-ICAに頼っていることがわかる(図5 c)。
また,血管造影との比較では,R-ICAにBeamSatを印加した画像とL-ICA造影画像は,ウィリス動脈輪より末梢の血流が同じように描出された。なお,L-ICAにBeamSatを印加した画像とR-ICA造影画像は,共にR-ICA狭窄が認められたが,前者では椎骨脳底動脈系から後交通動脈を介してR-MCAの描出を確認できたのに対し,後者では判断できなかった。
術後MRAのMIP画像では,R-STAからR-MCA,末梢への血流を確認でき,造影画像でもR-MCAの血流が確認された(図6)。
(3)考察
BeamSat TOFは,片側の内頸動脈狭窄・閉塞に伴う対側からの血行動態の描出において,造影画像と同等の情報が得られ,治療方針の決定や術後の経過観察に有用であると考えられる。動脈の高度蛇行症例や両側の内頸動脈狭窄・閉塞症例では,ウィリス動脈輪の描出が困難なため適応症例は限られるが,非侵襲的に外来検査が可能なBeamSat TOFの臨床的有用性は高いと言える。今後は症例を重ね,撮像時間の短縮をめざして検討を進めていく。
●参考文献
1)Narumi, S., et al:Altered carotid plaque signal among different repetition times on T1-weighted magnetic resonance plaque imaging with self-navigated radial-scan technique. Neuroradiology, 52, 285〜290, 2010.
西村祥循(Nishimura Yoshiyuki)
2010年 帝京大学医療技術学部診療放射線学科卒業。同年 日本医科大学武蔵小杉病院入職。2012年よりMRI従事。