ユーザー訪問
大阪市立大学医学部附属病院 先端予防医療部附属クリニック MedCity21
ECHELON OVALを脳ドックに活用し市民の健康の底上げを図る
あべのハルカス21階で高度な健診事業を開始
2014-9-25
(左から)野口麻里技師,四方田あかね技師,
福本真也所長,出田貴裕技師,中島麻美子技師
大阪市立大学医学部附属病院先端予防医療部附属クリニック“MedCity21”は,2014年3月に開業した高さ300m,地上60階建ての日本一の超高層ビル「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)の21階に開院した。公立学校法人初の健診事業施設となるMedCity21では大学病院(本院)と連携し,専門性の高い検診を実施するため高度な医療機器がそろえられた。MRI装置は日立メディコ社製超電導型1.5T MRI「ECHELON OVAL」が導入され,脳ドックでの活用が始まっている。
MedCity21で行われるCT,MRI,胃透視の検査については,本院放射線科から放射線科医が派遣されて読影にあたる。本院の協力により,質の担保された健診事業の展開を実現したMedCity21の役割や,ECHELON OVALの運用の実際,今後の展望について,放射線科の三木幸雄教授と下野太郎准教授,中央放射線部の技師長を務める市田隆雄保健副主幹,MedCity21所長を務める福本真也准教授を中心にお話をうかがった。
|
|
|
|
|
|
診療科からの信頼が厚い本院放射線科
MedCity21の本院である大阪市立大学医学部附属病院は,大阪市内唯一の大学病院であるとともに,大阪市民のための病院として,すべての診療科でレベルの高い医療を提供することが求められている。放射線科関連の診療科には,放射線科,放射線治療科,核医学科があり,放射線科医は,診断・IVRの教員が11名,治療の教員が3名の体制となっている。年間の検査件数は,CT検査が5万1000件,MRI検査が1万7000件(2013年度)に上る。三木教授は,「他の公立大学病院と比べ,群を抜いて検査件数が多いことが特徴です。それに対し読影スタッフが11名というのは大変厳しい状況ですが,各員の努力により,検査待ちの期間は1週間程度に収まっています」と話す。また,下野准教授は読影件数が多い理由について,「大学病院などでは,外部に画像検査を委託することも多いかと思いますが,当院では,診療科の先生が当科の読影レポートを希望してくれることから,院内検査件数が多くなる傾向にあります」と説明する。
放射線科が,診療科からの高い信頼を得ている背景には,日常的に行われる密なカンファレンスがある。自身も診療科9科とのカンファレンスを担当している下野准教授は,「他科が放射線科に対して非常に理解があり,カンファレンスの際には,他科の先生が放射線科のスケジュールに合わせて,しかも放射線科まで出向いてくれます。多くの診療科とカンファレンスを行い,コミュニケーションを深めています」と話す。
また,三木教授はIVRについて,「世界中で広く行われているHCCに対する肝動脈塞栓術(TAE)は,当科で始められた手技です。現在も年間800件を超える腹部領域をはじめ,多くのIVRを実施するとともに,動物実験を介して,IVRと免疫療法を組み合わせた先進的な治療の研究にも取り組んでいます」と,伝統と革新性を併せ持つ同院放射線科の特徴を説明する。また,「診療放射線技師と放射線科医が定期的に部門運営についてのミーティングを行い,診療の質の向上を図っています」とも述べる。
62名の診療放射線技師(以下,技師)が在籍する中央放射線部は,宿直体制で検査を行うため,全員がすべてのモダリティについて一定のスキルを身に付けることで,検査の質の担保を図っている。また放射線部は,放射線科同様,放射線技術の歴史の中で大きな役割を果たしてきた。本邦で初めてDSA技術の臨床応用を行ったほか,小肝腫瘍の存在診断・最適な治療への貢献を目的に,日立メディコ社と共同でアンギオCTの開発も手掛けた。
放射線部を束ねる市田副主幹は,同部の方針について,「平等に機会を与え,公平に評価することで,スタッフのモチベーションを高めて,いっそうの放射線技術の向上を導きたい。また,三木教授の配慮により,放射線科内の読影カンファレンスに技師も参加できるようになっており,技師のレベルアップを図ることで,先生方を少しでもサポートできればと考えています」と述べる。
科・部門を越えて活発なコミュニケーションを図り,画像診断の研鑽を積む放射線科,放射線部にもMedCity21立ち上げへの協力が要請され,読影医の派遣や,技師の調整などを担当している。
|
|
|
|
市民の健康の底上げを目的に大学病院附属の健診施設を開設
大阪市は,全国20大都市の中で健康寿命が最も低く,加えて,がん検診の受診率も大阪府が国内最下位水準であることから,健診受診率を向上し,市民の健康を底上げすることが重要な課題となっている。そのような中,MedCity21は大阪市立大学医学部附属病院の健診施設として,「予防医療の実践」「疫学的研究」「研究者の育成」を目的に設立された。
福本所長は,MedCity21の役割について,「多くの市民に健診や人間ドックを受診してもらうことで生活習慣病の発症を防ぎ,また早期発見で治療へとつなげ,市民の健康寿命を延ばすことが大きな目的です。また,疫学的研究や集積した未病の方のデータ解析から,より早期の診断法や予防法の開発なども行い,予防医療を推進する活動を多角的に実践します」と話す。
MedCity21は,JR,近鉄,地下鉄4線の駅と直結するあべのハルカス内に開設された。本院へも徒歩10分以内という立地だ。もともと阿倍野区を含む大阪市南部は,北部と比べ健診施設が少なかったが,交通アクセスが良く,話題性の高い場所に開院したことで,より多くの市民の健診受診につながることが期待される。
MedCity21は,「人間ドック・健診」「レディースエリア」「総合診療エリア」の3つのエリアで構成される。レディースエリアは,医師,看護師,受付はすべて女性で,女性が受診しやすい環境を整えることで,乳がんや子宮がんの検診受診率の向上と死亡率の減少をめざして設けられた。また,総合診療エリアは,健診や本院での精密検査の結果説明,軽症患者のフォローアップに特化した専門外来エリアであり,電子カルテを本院の各外来とつなげ,検査画像の参照や,院内紹介状の発行を容易に行える環境を構築した。本院と機能を分けることで,待ち時間の短縮や患者の負担軽減に寄与している。
人間ドックは,受診者のニーズに合わせた専門性の高い検査を提供するため,複数のコースを設定している。「標準」「がん」「ライフスタイル」「エグゼクティブ」の4コースに加え,脳,肺,肝臓,心臓の各領域に特化した専門ドックコースが用意されている。健診で使用されることは少ない血管内皮機能(FMD)検査装置やFibroScanも導入している。
スタッフは,医師7名,看護師20名,診療放射線技師5名,臨床検査技師10名,事務16名が在籍。医師は,本院の代謝内分泌科,肝臓内科,消化器内科,呼吸器科,産婦人科,乳腺外科,皮膚科の専門医が健診・検診・診療にあたる。
放射線検査装置は,管理の利便性やコスト抑制のため,CT,MRI,X線一般撮影装置,X線透視撮影装置,マンモグラフィなどを一括導入とした。21階という高層エリアへの導入となることから制約も多く,各メーカーへは通常より多くの要件が提示され,入札の結果,日立メディコ社の装置が導入されることになった。具体的には,CT装置には先進技術を搭載し,ノイズ低減技術“Intelli IP(Advanced)”が標準搭載された16列の「Supria」が,MRI装置には快適性と高画質を両立した1.5Tの「ECHELON OVAL」が選定された。
|
|
健診施設としてサービスに配慮し受診者に選ばれる施設に
地上21階の高層階に位置するMedCity21へのMRI装置の搬入作業は一大プロジェクトとなった。5.2トンのガントリはエレベータでは搬入できないため,施工業者の全面協力のもと,開閉できないFIX窓を外し,ガントリを吊り上げるクレーンと,屋内に引き込むための台車が特別に作製された。夜間に行われた搬入作業は,一帯を立ち入り禁止とし,10トンの重りを使った2日間の搬入テストで安全を確認した上で実施された。検査室エリアの施工においては,シールドはもちろん,階下にホテルの施設があることから,防音・防振のための特別な工事が行われた。
施設内装は,落ち着きのあるホテルのようなインテリアを調えた。MedCity21を事業として成功させるためには,選ばれる施設となる必要があることから,受診者に満足してもらえるサービスを心がけていると福本所長は話す。
「優秀なスタッフを集め,講師を招いて接遇の研修も行いました。健診は自費で受診される方も多いので,質の高い検査・診療を提供することはもちろん,立地,設備,サービスを含めて,満足していただけるように努めています」
放射線部門の責任者には,本院で放射線治療部門の管理職として患者と向き合ってきた四方田あかね技師が抜擢された。受診者対応について四方田技師は,「健診は基本的に健康な方が受診されるので,接遇の意識は変わりました。検査では,受診者に担当技師が付いて一通りの検査を行うので,受診コースや年齢を確認した上で,適切・丁寧にコミュニケーションを取るようにしています」と述べる。
受診者は50〜60歳代が中心で,企業健診・人間ドックなどの補助を利用した受診が6〜7割を占めるが,個人での受診も多い。運営課の藤原秀憲企画担当係長は,「エグゼクティブコースは,あべのハルカス内の大阪マリオット都ホテルと提携し,1泊2日の全身検査を提供しています。ホテルの客室フロアから直通のエレベータも備えており,受診いただく方の利便性を高めています」と説明する。
人間ドックの結果は,受診者が希望すれば当日中に可能な限りの結果説明を行い,他の検査結果は郵送で報告される。また必要に応じて,後日,総合診療エリアでの説明外来やフォローアップを受診する流れとなる。
|
|
|
動脈瘤検索の要となるMRAの画質の高さを評価
ECHELON OVAL によるMRI検査は,現在のところ脳ドックでのみ行われている。脳ドックでは,基本的にT1強調画像,T2強調画像,拡散強調画像,FLAIR,頭部MRA,頸部MRAを撮像しており,無症候性脳梗塞や未破裂動脈瘤,脳腫瘍,脳動脈奇形などの早期発見が期待される。読影を行う下野准教授は,なかでも動脈瘤検索のためのMRAの重要性を指摘する。
「検診では血管評価が重点の1つであるため,MRAの画質は重要です。3T装置と比べて,1.5T装置では,例えば大きく屈曲する内頸動脈サイフォンで信号が低下したり,血管が細長く描出されたりといったことをこれまで経験してきました。しかし,ECHELON OVALでは明瞭なMRAを撮像できており,動脈瘤検索において大きなメリットがあると感じています。また,MRA以外も限られた検査時間内できれいな画像が得られ,内耳道など微細な観察に用いるheavy T2強調画像も良好な画像を得られています」
読影は,本院放射線科からローテーションで毎日1名の医師がMedCity21を訪れ,前日分のMRI,CT,胃透視の読影を行いレポートを作成している。その上で,脳外科や消化器内科など各診療科の医師が画像のダブルチェックを行い,他の検査データと合わせて検査結果を提供している。
下野准教授は,「胃透視の検査では,透視下観察も検査を構成する要素となりますが,MedCity21の技師の皆さんは透視中に気づいた点などを丁寧に報告書にまとめてくれます。そのため,実際にはトリプルチェックとなっている状態で,画像診断の質を担保できていると言えるでしょう」と話しており,医療スタッフがチームとなってMedCity21がめざす,専門性が高く,質の保たれた健診・検診を実現していることがうかがえる。
■臨床例
オープンで快適な検査空間が受診者に与える安心感
ECHELON OVALは,1.5Tの高画質に加え,楕円形状のワイドボアによる快適性も両立した点が大きな特徴である。横74cm,縦65cmのボアは,膝を曲げた状態など姿勢に制限があっても検査を受けやすく,患者の快適性向上に大きく貢献する。脳ドックの受診者からは,「検査空間が広いため,他院で検査をしたときよりも楽だった」「閉所恐怖症で心配だったが,問題なく検査を受けられた」といった感想が多く聞かれると,検査を担当する技師は話す。
また,ECHELON OVALには,コイルのセッティングや交換を容易にするWIT RF Coil Systemが実装されており,脳ドック検査では頭頸部用のアタッチメントを用い,1回のセッティングですべての撮像が行える。また,着脱可能なWIT Mobile Tableは,電動昇降式で50cmの高さまでテーブルを下げることができ,小柄な受診者や高齢の方でも難なく乗降することができる。
現在は脳ドックのみでの使用であるが,今後は婦人科検診(骨盤MRI)での利用が予定されている。ECHELON OVALでは,テーブルに組み込まれたSpineコイルと受診者上部に乗せるTorsoコイルで,容易に体幹部撮像を行うことができる。コイルは,巻き付けるように体に密着させたセッティングが可能で,SNRの向上が期待できる。
技師は日立メディコ社製MRIの操作経験はなかったが,コンソールについては,パラメータ変更の際に目的の項目をすぐに見つけられる撮像条件の一覧表示に使いやすさを感じていると話す。
ECHELON OVALを活用した今後の展開が期待されるMedCity21
福本所長はECHELON OVALの今後の活用について,整形外科など検査領域を広げる準備を整えていくと話す。
「あべのハルカス21階,22階のメディカルフロアには,さまざまな診療科のクリニックが開院しているので,そこからのCTやMRIなどの検査依頼を受けられるように態勢を整え,装置を活用したいと考えています。また,予防医療を実践する施設として,研究にもECHELON OVALを利用する構想もあります。MedCity21全体の展望としては,受診者はもちろんですが,研究者や医師,技師なども含め,多くの人が集まる医療センターを構築したいという思いがあります。さらに,関西空港からもアクセスの良い立地を生かし,経済の活性化にもつながる医療ツーリズムをアジア各地から呼び込み,将来的には“アジアの健診センター”をめざしたいと考えています」
ECHELON OVALをさらに活用することで,市民の健康を支えつつ,世界へも視野を広げるMedCity21の今後の展開が注目される
(2014年7月30日取材)
国内メーカーの強みを生かしたMRI開発に期待
MedCity21の開院に伴い,大阪市立大学医学部附属病院は日立メディコの新しいユーザーとなった。日立MRIへの期待,そして同院放射線科・放射線部門の今後の展望について,三木教授,下野准教授,市田副主幹にお話をうかがった。
三木:当院の画像検査・読影件数は非常に多いのですが,下野先生をはじめ,医局員のおかげで,診療科のさまざまなリクエストにも応えられるよう,レベルアップすることができました。今後は,きちんとした教育を継続しつつ,研究をもっと盛んにしていくことが当科の課題です。日立メディコからは3T装置も上市され期待していますが,国内メーカーには大きな強みがあると思います。例えば,コイルの部品は日本の中小の工場が製造していることも多く,これらの企業とコラボレーションして特許技術を開発することも1つです。また,われわれの声を製品に反映してもらいやすいとも感じているので,それを強みに,ますます発展していくことを期待しています。
下野:ユーザーの要望がメーカートップに伝わるスピードは,国内メーカーの方が速いと感じます。こちらからの打診に対し,「ここまではできる」「こういう理由でできない」といった具体的で迅速なレスポンスがあれば要望も出しやすいですし,開発に生かされているという実感を持つことができます。また,当科については,画像カンファレンスや診断の研修に外部から多くの方に来てもらっています。立地も良く,周囲に競合する大学病院もないオンリーワンの立場を生かして,研修などを通して当科がハブのような役割となり,活発な人材交流ができればと考えています。多くの人が集まれば,他科も含めて活性化しますので,研究内容が増え,深まることを期待しています。
市田:院内では,チーム医療の1つのケースとしてわれわれ技師も加わり,心臓血管外科を中心とするハートチームの結成へと動き始めています。中央放射線部は,放射線科の先生と二人三脚で検査・治療にあたり,患者さんに貢献していくことが第一ですが,中央部門として他の診療科の先生からの求めにも積極的に応じていきます。今回,日立メディコのラインナップをMedCity21に導入する縁が生まれましたが,国内メーカーのメリットを生かして,開発側とユーザーがキャッチボールをするようにMRIの開発が進めば素晴らしいと考えます。
大阪市立大学医学部附属病院
先端予防医療部附属クリニック
MedCity21
〒545-6090 大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス21階
TEL 06-6624-4010
URL http://www.medcity21.jp
- 【関連コンテンツ】