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Hi Advanced MR セミナー
講演1 関節MRIの最近の動向
新津 守(埼玉医科大学放射線科)
2014-9-25
関節軟骨の診断において,MRIによる評価は非常に重要である。本講演では,軟骨を中心とした関節MRIについて,形状診断と質的診断それぞれの最近の動向について解説する。
軟骨診断におけるMRIの有用性
変形性関節症(osteoarthritis:OA)は,高齢化が進むわが国では確実に増加していく疾患である。従来,単純X線写真による診断が行われてきたが,自覚症状が出て医療機関を受診した時には進行期となっていることが多く,その場合は,人工関節置換術などの侵襲的な治療を実施することが多い。そのため,微小な変化をとらえられるMRIを活用し,できるだけ早期にOAを診断することが求められる。
また,若年に多い外傷による軟骨損傷は,外力による直接の損傷や,靱帯や半月板損傷後の二次性軟骨損傷が原因となる。関節鏡による診断は侵襲的で死角が多く,観察が表面のみといった課題があるため,MRIによる形状診断,質的診断が重要となる。
脛骨が前方へずれることを防ぐ前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)は,外旋力が加わると断裂しやすい。断裂すると,脛骨後方と大腿骨前方が衝突して骨挫傷を生じ,MRIでbone bruiseとして認められることが多い。ACL断裂に続発する骨・軟骨損傷を経時的に観察した検討1)では,早期にT2マップなどで軟骨の質的診断を行うことで,隣接する骨の将来的な変形を予測できる可能性が示唆された。また,ACL断裂は経時的に軟骨損傷を増加させる傾向があるため1),できるだけ早期の対策が必要である。
非侵襲的な検査が可能なMRIは高磁場化が進み,画像の精度が高くなっていることから軟骨の形状診断はもとより,質的診断も可能である。MRIで軟骨をしっかりと描出し,診断・治療へとつなげることがわれわれの課題である。
軟骨の“形”を見る
軟骨の形状診断には,0.2〜0.3mm程度の面内空間分解能を持つ高分解能画像が必須で,多チャンネルコイルやマイクロコイル,または3T以上の高磁場装置が必要となる。さらに,断層面の適切な設定と,軟骨と関節液のコントラストを上げることも重要である(図1)。
MRIによるOAの形状診断には,Modified Noyes分類(またはModified Outerbridge分類)を改変したグレード分類(グレード1:正常〜グレード4:full-thickness defect)を用いている。MRIでは,形状変化出現以前のT2マッピングで微細な信号変化が見られるような早期診断が可能なことから,わずかな変化をとらえる高空間分解能,高コントラスト分解能の画像が必要となる。
●高分解能画像
高分解能画像を得る方法の1つに,スキャンマトリックス,再構成マトリックスを256から512や1024に上げる方法がある。半月板と内側側副靱帯(MCL)の付着部の画像では,両マトリックスを上げた画像の方が,MCLの浅層から深層,筋膜層までを判別でき,微細な関節包損傷や軟骨損傷の観察が可能となる。また,マイクロコイルを用いて,FOVを絞ることで空間分解能を上げることもできる(図2)。
さらに3T装置を用いれば,広いFOVの高分解能画像を得られ,かつ画像を拡大しても明瞭に観察することができる(図3)。3T装置はSN比が高いため,空間分解能を上げる,スライス厚を薄くする,撮像時間を短縮してシリーズを追加する,といったことが可能となる。T1の延長や化学シフト,信号ムラといったいくつかの問題点はあるものの,磁化率強調画像(SWI)なども応用され始めるなど,3T以上の高磁場装置による撮像は軟骨の評価にとってメリットが多い。
軟骨の撮像には,スタンダードな2D FSE法や3D GRE法,関節液を強調できる3D bSSFP法,trueFISP法,FIESTA法,さらには,isotropic画像を取得でき任意に再構成可能な3D FSE法といった各種撮像法が用いられる。
また,撮像においては,適切な断層面の設定も重要である。例えば軟骨に亀裂がある場合には,亀裂に対して直角方向の断面像がなければ見落とす可能性もあるため,軟骨の観察では,少なくとも3方向の高分解能画像を撮像すべきである。
高分解能画像を取得できれば,ワークステーションでの3D画像再構築も可能となり,離断性骨軟骨損傷時の自家軟骨移植採取部の評価,術前シミュレーションにも用いることもできる。
●コントラスト分解能
軟骨撮像では,MTC付加T2強調画像などの「関節液を白くして軟骨を灰色にする方法(bright fluid sequence)」と,脂肪抑制T1強調GRE法などの「軟骨を白くして関節液を黒くする方法(dark fluid sequence)」がある。現在,当施設では,関節液を高信号にしたプロトン強調に近い中間的画像を軟骨評価に用いている。図4の画像のように,水を高信号にすることで,関節液を灰色にする従来法では見えなかった大腿骨の軟骨の微細欠損をとらえることができる。
また,軟骨や半月板,靱帯などは,T1強調画像ではほとんど観察できないため,プロトン強調に近い中間的画像を推奨する。軟骨については,現状では3D GRE法が適していると考える。なお,FSE法ではブレ防止のため,ETLは最大5〜6に抑える必要がある(図5)。
両側股関節の観察では大腿骨頭壊死を見逃さないことが特に重要となるが,通常のT2強調画像では骨髄の脂肪と骨髄浮腫がともに高信号となり判別できない。そのため,両側股関節では,T1強調画像と脂肪抑制T2強調画像を撮像すべきである。
また,股関節唇の撮像では,損傷の位置や角度を認識しやすくするために高分解能撮像を行い,放射状断面の再構成画像を提供している(図6)。
●膝関節MRIの症例提示
図7に,当施設における膝関節MRIのプロトコルを示す。
膝関節の撮像では3方向撮像に加え,骨髄浮腫をとらえる脂肪抑制T2強調画像などのedema-sensitive sequenceが必須である。また,関節液内の出血や脂肪を見るために,T1強調画像を追加するとよい。
【症例1】膝蓋骨外側脱臼による骨軟骨損傷
膝蓋骨外側脱臼が自然に整復した場合には,MRIの横断像でのみ脱臼の痕跡を確認できるケースも多い。骨髄浮腫を白く描出する脂肪抑制T2強調画像やT2*強調画像では,膝蓋骨内側と大腿骨外側にbone bruiseが認められ,診断可能であった(図8)。
【症例2】離断性骨軟骨損傷
離断性骨軟骨損傷は,損傷状態によって保存療法か手術かの適応を決める。単純X線やMRIで診断するが,手術適応となる軟骨面の反転などは高分解能MR画像で観察可能となる(図9)。また,遊離体の有無や由来の確認にもMRIが有用である。手術では,はがれた骨軟骨片を生体吸収ピンで固定する治療が行われるが,術後評価にもMRIが用いられる。
軟骨の“質”を見る
関節軟骨は,表層,移行層,放射層,石灰化層の4層構造であり,その組成は水,コラーゲン(Ⅱ型)線維,プロテオグリカン(PG)から成る。含有率10%程度のPGが軟骨の本体である。
軟骨の質的診断の主な方法としては,緩和時間を計測するT1(dGEMRIC),T2,T2*,T1ρなどと,飽和移動を見るCESTがある。
●緩和時間計測による軟骨評価
1)T2マッピング
T2マップは,マルチエコーSE法などでピクセルごとのT2値を計測し,カラーコーディングしてオリジナル画像に重ね合わせる手法である(図10)。軟骨が変性すると,コラーゲン配列が不規則となって水分含有量が高くなり,T2値が上昇する。ただしT2マップは,水分含有量の変化を見ているということ,また,マジックアングルの影響を受けやすいデメリットがあることに留意する必要がある。
また最近は,T2マップからT2値上昇の分布の均一さ(分散,entropy),つまり,コラーゲン配列の不規則さを評価するtexture analysisも行われるようになっている。
2)T1マッピング:dGEMRIC
PGに含まれるグリコサミノグリカン(GAG)は,軟骨が変性すると減少するとされる。このGAG濃度を定量化することで軟骨変性を評価するのが,dGEMRIC(delayed gadolinium enhanced magnetic resonance imaging for cartilage:遅延相軟骨造影MRI)である。GAGは陰性荷電であるため,ガドリニウム造影剤(Gd-DTPA2-)はGAGの多い正常軟骨と反発し,GAGが少ない軟骨変性部に集積する。濃染に時間がかかることや,保険が適用されないといった短所はあるが,T1マップで画素ごとのT1値を計測し,カラーコーディングしてオリジナル画像に重ねることで,一目で軟骨変性を把握できる。
3)T1ρマッピング
T1ρマッピングでは,造影剤を用いないGAG濃度評価が可能となる(図11b)。T1ρ値は,spin lock timeを変えて複数回撮像することで求めることができる。
軟骨が変性するとGAGやコラーゲンが減少して水分子運動が増大し,T1ρ値が延長する。相対値ではあるが,T1ρ値はGAG濃度を反映すると考えられ,これを計測・カラーコーディングすることで,軟骨変性の評価が可能となる。
●CESTによる軟骨評価
CEST(chemical exchange saturation transfer)は,特定の化合物に組み込まれたプロトンの周波数を飽和パルス印加により選択的に抑制し,そのプロトンと交差緩和している自由水の信号低下を検出することで,間接的に化合物を観察するイメージング法である(図11c)。ターゲットとする化合物には内因性物質と外因性物質(造影剤)があり,内因性としては,アミド基(-NH2)をターゲットとしたamide proton transfer(APT)イメージングが脳腫瘍などで臨床応用が進んでいる。
軟骨の評価には,GAGのヒドロキシ基(-OH)をターゲットとするCESTが応用可能である。GAGのピークシフト(1ppm)を検出し,ピクセルごとにマッピングする。GAGの信号変化はきわめて小さいため,検出は容易ではないが,GAGファントムのT1ρマップとCESTを比較したところ,CESTの方がコントラスト分解能が高かったことから有用性が期待できる。
CESTには,GAGなど特定の化合物を特異的に測定できることや,pHの測定もできるという利点があるが,逆にpHに影響されやすい,7Tに比べて3Tでは検出能が低い,B0不均一補正が必須といった課題があり,臨床応用に向けてこれらの解決が求められる。
●23Na Sodium MRIによる軟骨評価
23Na Sodium MRIは,造影剤を用いずにGAG濃度評価を行うイメージングである。陽性荷電の23Naは,陰性荷電のGAGに引きつけられてPG表面に帯電して固着することから,23Naを測定することでGAGの濃度を観察することができる。ただし,現在は7T装置による長時間撮像でようやく画像を得られる状態であり,臨床応用にはまだ遠い。
●Ultra-short TEによる軟骨評価
Ultra-short TE(UTE)も軟骨評価に利用できることが期待され,1ms以下,または0.1msのTEで撮像することで,靱帯や腱などのT2値が短い組織から信号を受信することができる(図12)。これを応用したのが,UTE-T2*マップである(図11d)。UTE(TE=0.1〜40ms)で撮像したT2*マップでは変性が信号変化として描出され,texture analysisやACL断裂などの経時的変化の評価に利用できると期待される。
まとめ
軟骨を中心とした関節MRIの撮像法や解析法を紹介したが,それぞれ一長一短があり,さらなる研究・開発が必要である。軟骨疾患の早期で精度の高い診断,そして適切な治療につなげるためにも,MRIによる質的評価が今後の大きな課題と言えるだろう。
●参考文献
1)Potter, H.G., et al.:Cartilage injury after acute, isolated anterior cruciate ligament tear;Immediate and longitudinal effect with clinical/MRI follow-up. Am. J. Sports Med., 40, 276〜285, 2012.
新津 守(Niitsu Mamoru)
1978年東京大学工学部卒業。86年筑波大学医学専門学部卒業。91年米国メイヨ—・クリニックMRI研究所。92年筑波大学大学院博士課程医学研究科修了。96年2月筑波大学臨床医学系放射線科講師,2005年首都大学東京健康福祉学部放射線学科教授,2011年より現職。
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